高齢者の健康管理は「車の定期メンテナンス」|かかりつけ医によるプライマリーケアが重要な4つの理由
車は、走った距離や年数に応じて、オイル交換や部品点検を定期的に行います。小さな異変を早めに見つけて手当てしておけば、大きな故障やエンジンの寿命短縮を防げるからです。
実は、私たちの体も同じです。とりわけ高齢になるほど、日常的な「メンテナンス」を担ってくれる医師の存在が重要になります。それが、かかりつけ医によるプライマリーケアです。
しかし日本では、「具合が悪くなってから病院に行く」という文化がまだ根強く残っています。欧米に比べて、かかりつけ医を持つ人の割合が低いとも指摘されています。
本記事では、プライマリーケアの基本的な考え方から、高齢者にとって特に重要な理由、かかりつけ医に伝えておくべき情報、そして終活の一環としてこうした健康情報を記録しておく意義まで、わかりやすく解説します。
本記事で理解できること
– プライマリーケア(かかりつけ医)とは何か、日本と欧米の違い
– 高齢者にプライマリーケアが特に重要な4つの理由
– かかりつけ医に伝えておくべき情報のチェックリスト
– プライマリーケアの具体的な内容(検診・予防接種・生活習慣病管理・フレイル予防など)
– 健康情報をエンディングノートに残しておく意義
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・法律・税務・投資相談ではありません。特定の医療機関や医師を推奨するものではなく、健康状態や治療方針、服薬の変更については必ず医師・薬剤師など専門家にご相談ください。個別の相続・終活の案件については、弁護士・税理士・司法書士にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、制度改正や医学的知見の更新により変更される場合があります。
プライマリーケアとは|専門病院に行く前の「最初の窓口」
プライマリーケアとは、専門的な病院にかかる前に、まず相談できる「最初の窓口」となる総合的な医療ケアのことです。日本では、この役割を担う医師を「かかりつけ医」と呼ぶことが一般的です。
かかりつけ医は、特定の病気だけを診るのではなく、患者の生活背景や価値観、複数の健康問題を総合的に理解したうえで、適切な診断・処方を行い、必要に応じて専門医療機関へ紹介する役割を担います。高齢化が進む日本において、患者の状態や生活環境を把握したプライマリーケアを医療の基盤として確立することが重要だと位置づけられています。
つまり、かかりつけ医は「何でも屋」ではなく、体調の変化に最初に気づき、必要な専門医へつなぐ「交通整理役」というイメージです。
日本のかかりつけ医の現状|欧米との違いと「悪くなってから行く」文化
海外、特にイギリスやオランダなどでは、家庭医(GP:General Practitioner)制度が整備されており、住民は原則としてまず登録した家庭医を受診し、必要に応じて専門医へ紹介される仕組みが一般的です。継続的に同じ医師にかかることが制度として組み込まれているため、日常的な健康管理が根づいています。
一方、日本では医療機関を自由に選べる「フリーアクセス」が特徴で、これは患者にとって利便性の高い仕組みです。ただ、その裏返しとして「決まったかかりつけ医を持たず、具合が悪くなったときにその都度違う医療機関にかかる」という行動パターンも珍しくありません。
こうした状況を踏まえ、2025年4月には「かかりつけ医機能報告制度」が施行されました。これは、地域の医療機関がどのような機能を持っているかを都道府県に報告し、住民が自分の状態に応じて適切な医療機関を選択しやすくするための仕組みです(出典:厚生労働省)。制度面からも、日常的・継続的な医療との関わりを持つことの重要性が、あらためて確認されつつあります。
高齢者にプライマリーケアが特に重要な4つの理由
若い世代であれば、体調不良のときにだけ医療機関にかかる「都度受診」でも大きな問題になりにくいかもしれません。しかし高齢者の場合、継続的なプライマリーケアを欠くことで生じるリスクが格段に大きくなります。主な理由は次の4つです。
① 複数の病気を同時に抱えやすい(多疾患併存)
高齢になるほど、高血圧、糖尿病、腰痛、関節症など、複数の慢性疾患を同時に抱える「多疾患併存(マルチモビディティ)」の状態になりやすくなります。それぞれの病気を別々の専門医にかかって管理していると、治療方針が食い違ったり、検査が重複したりする可能性があります。
かかりつけ医が全体像を把握していれば、複数の疾患を横断的に見渡し、優先順位をつけた治療方針を組み立てやすくなります。
② 薬の飲み合わせ問題(ポリファーマシー)
複数の医療機関を受診し、それぞれで薬を処方されると、必要以上に多くの薬を服用する「ポリファーマシー」の状態に陥りやすくなります。
日本老年医学会が公表した『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025』では、外来において5〜6種類以上の薬剤を併用している場合、転倒などの有害事象の発生率が高まるという研究結果が示されています(出典:日本老年医学会)。転倒は骨折や寝たきりのきっかけにもなりうるため、看過できないリスクです。
かかりつけ医が服薬状況を一元的に把握していれば、不要な処方の重複や、相互作用のリスクがある薬の組み合わせに気づきやすくなります。
③ 認知機能の変化を早期に発見できる
認知機能の低下は、本人よりも周囲が先に気づくことが多いとされています。継続的に同じ医師にかかっていれば、「以前と比べて言動や様子に変化がある」といった、わずかな変化に気づきやすくなります。
認知症は、早期に気づくことで、本人の判断能力が保たれているうちに任意後見契約や家族信託、財産管理委任契約などの準備を進められる可能性が広がります。認知症の早期発見サインについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ 認知症の早期発見サイン10選|発症前にやるべき5つの準備
④ 緊急時の情報共有ができる
高齢者は、急な発熱や転倒、意識障害などで救急搬送されるリスクが相対的に高くなります。そうした緊急時、搬送先の医療機関にとって、既往歴・アレルギー・常用薬などの情報が事前にわかっているかどうかは、初期対応の質と速さに直結します。
かかりつけ医がこれらの情報を継続的に把握していれば、緊急時にも迅速な情報共有が可能になります。近年は、スマートウォッチなどのウェアラブル端末による見守りサービスを併用する家庭も増えており、こうした情報連携の重要性はさらに高まっています。
車の定期メンテナンスに例えると|小さな異変の放置が「大きな故障」になる
車は、走行距離や年数に応じてオイル交換やタイヤ点検、バッテリーチェックなどを定期的に行います。小さな異変を見逃さず対処しておけば、エンジントラブルのような大きな故障や、走行中の重大な事故を防ぐことができます。逆に、日常のメンテナンスを怠ったまま乗り続けると、ある日突然、動かなくなってしまうこともあります。
体も同じ構造を持っています。
- 日常の定期メンテナンス = かかりつけ医による定期受診・健康診断
- 小さな異変の早期発見 = 血圧・血糖値のわずかな変化、体重減少、もの忘れの兆候
- 大きな故障 = 脳卒中、心筋梗塞、重度の骨折、救急搬送を伴う重篤な疾患
「体調が悪くなってから病院に行く」というのは、いわば「壊れてから修理工場に持ち込む」ような対応です。それでは、事前に防げたはずの重大な故障(重大疾患・救急搬送)を防げなくなってしまいます。
日常的にかかりつけ医という「かかりつけの整備士」を持ち、定期的に体の状態を点検してもらうこと。それこそが、高齢者にとってのプライマリーケアの本質だと言えるでしょう。
かかりつけ医に伝えるべき情報チェックリスト
かかりつけ医に自分の状態を的確に把握してもらうためには、以下の情報を整理して伝えておくことが役立ちます。初診時だけでなく、状況が変わったときには随時アップデートすることも大切です。
- 既往歴:これまでにかかった病気、手術歴、入院歴
- アレルギー:薬物アレルギー、食物アレルギーの有無と具体的な反応
- 常用薬:現在服用しているすべての薬(他院処方分・市販薬・サプリメントを含む)
- 家族歴:親・兄弟姉妹などの主な病歴(生活習慣病、がん、認知症など)
- 生活習慣:食事の傾向、運動習慣、飲酒・喫煙の有無、睡眠状況
これらの情報は、いざというときに口頭で正確に思い出すのが難しいことも多いものです。メモやお薬手帳、後述するデジタルのエンディングノートなどに記録しておくと、かかりつけ医への説明がスムーズになります。
プライマリーケアの具体的な内容
プライマリーケアと言っても、実際にはどのようなことを行うのか、具体的に見ていきましょう。
① 定期検診・健康診断
年に1回程度の定期的な健康診断は、生活習慣病や臓器の異常を早期に見つける基本的な手段です。数値の推移を継続的に見てもらえることも、かかりつけ医を持つメリットのひとつです。
② 予防接種
高齢者にとって、感染症の重症化予防は特に重要です。日本ではこれまでに、インフルエンザ(2001年に定期接種化)、肺炎球菌(2014年に定期接種化)、新型コロナウイルス(2024年に定期接種化)、帯状疱疹(2025年に定期接種化)が、65歳以上を対象とした定期接種の対象に加わってきました(出典:厚生労働省)。なお、肺炎球菌ワクチンは2026年4月から、使用するワクチンの種類が変更される予定です。RSウイルスワクチンのように、まだ任意接種の位置づけのものもあります。
どのワクチンを、いつ接種すべきかは、持病や体調によって異なります。自己判断で接種の有無を決めるのではなく、かかりつけ医に相談のうえで検討することが望ましいでしょう。
③ 生活習慣病の管理
高血圧、糖尿病、高脂血症といった生活習慣病は、自覚症状が出にくいまま進行し、脳卒中や心疾患のリスクを高めます。定期的な数値のチェックと、必要に応じた薬の調整を継続的に行えることが、かかりつけ医を持つ大きな利点です。
④ フレイル予防
フレイルとは、加齢に伴って筋力や心身の活力が低下し、健康な状態と要介護状態の中間に位置する段階を指します。厚生労働省は、75歳以上を対象としたフレイルの状態を確認する健診の実施を進めています。かかりつけ医による日常的な診察は、フレイルの兆候に早く気づくきっかけにもなります。
⑤ メンタルヘルスの確認
高齢期は、退職や配偶者との別れ、社会的な孤立などをきっかけに、気分の落ち込みや意欲の低下が起こりやすい時期でもあります。かかりつけ医との継続的な関わりは、体だけでなく心の変化に気づく機会にもなります。気になる症状がある場合は、我慢せずに相談することが大切です。
かかりつけ医を持つには|見つけ方の基本ステップ
かかりつけ医をこれから持ちたいと考える場合、次のようなステップで検討するとよいでしょう。
- 自宅から無理なく通える距離にある医療機関を候補にする
- まずは健康診断や軽い不調の際に受診し、相性を確かめる
- 説明のわかりやすさ、相談しやすい雰囲気かどうかを重視する
- 総合診療科・内科などを標榜し、必要時に専門医への紹介を行っているかを確認する
特定の医療機関や医師を推奨することはできませんが、「継続して通いやすいこと」「気になることを相談しやすいこと」が、良いかかりつけ医を見つけるうえでの共通した目安になります。
かかりつけ医の情報をエンディングノートに残しておく重要性
かかりつけ医との関係が長く続くほど、蓄積される情報は増えていきます。しかし、その情報が本人の記憶や、かかりつけ医のカルテの中だけにとどまっていると、いざ緊急搬送や入院、あるいは本人の判断能力が低下した際に、家族や医療機関がすぐにアクセスできないという問題が生じます。
- かかりつけ医の名前・医療機関名・連絡先
- 常用薬とその服用理由
- アレルギー情報
- 延命治療に関する希望
- 家族に伝えたいこと
こうした情報をあらかじめ整理し、家族と共有できる形で記録しておくことが、緊急時に家族が迷わず対応するための備えになります。
DENのようなデジタルエンディングノートサービスを活用すれば、かかりつけ医の情報や常用薬、アレルギーといった健康情報を、暗号化された安全な形で記録・整理しておくことができます。
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よくある質問(FAQ)
Q1. プライマリーケアとかかりつけ医は同じ意味ですか?
A. プライマリーケアは「専門病院にかかる前の総合的な医療ケア」という考え方・仕組みを指す言葉で、かかりつけ医はその役割を実際に担う医師のことを指します。日本では両者はほぼ同じ意味で使われることが多いです。
Q2. かかりつけ医は何科の医師を選べばよいですか?
A. 内科や総合診療科を標榜する医師が一般的な選択肢とされていますが、既往症の内容によって適切な診療科は異なります。まずは日頃の健康相談から始め、必要に応じて専門医への紹介を受けるとよいでしょう。
Q3. 複数の病院にかかっている場合、かかりつけ医は1人に絞るべきですか?
A. 専門的な治療のために複数の医療機関にかかること自体は問題ありません。ただし、それぞれの受診状況や処方薬について把握してくれる「窓口」となる医師を1人持っておくと、全体の管理がしやすくなります。
Q4. ポリファーマシーが心配な場合、どうすればよいですか?
A. 自己判断で服薬を中断せず、かかりつけ医や薬剤師に、現在服用しているすべての薬(他院処方分・市販薬・サプリメントを含む)を伝えて相談することが基本です。お薬手帳を活用し、1冊に情報をまとめておくと確認がスムーズです。
Q5. フレイルは自分やかかりつけ医だけで気づけるものですか?
A. 体重減少や歩行速度の低下、疲れやすさなどの変化から気づけることがあります。家族が一緒に受診に付き添い、日常の様子の変化を医師に伝えることも、早期発見の助けになります。
Q6. かかりつけ医の情報を家族と共有しておくメリットは何ですか?
A. 本人が急に入院・救急搬送された場合や、判断能力が低下した場合でも、家族がかかりつけ医の情報や常用薬・アレルギーを把握していれば、医療機関への説明や対応がスムーズになります。
まとめ
プライマリーケアとは、専門病院にかかる前の「最初の窓口」として、日常的な健康管理を継続的に担うかかりつけ医によるケアです。高齢者にとっては、多疾患併存、ポリファーマシー、認知機能の変化、緊急時の情報共有という4つの理由から、その重要性が一段と高まります。
車の定期メンテナンスのように、日常的な小さな異変を早期に見つけて対処することが、脳卒中や重度の骨折といった「大きな故障」を防ぐ最善の方法です。そのためにも、既往歴・アレルギー・常用薬・家族歴・生活習慣といった情報を整理し、かかりつけ医と継続的に関わっていくことが大切です。
そして、その情報を家族とも共有できる形で記録しておくことは、緊急時への備えとしても重要な意味を持ちます。かかりつけ医との関わり方に迷いがある場合は、まずは医師に相談することから始めてみてはいかがでしょうか。
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参考文献・出典
– 厚生労働省「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行について」(厚生労働省、2025年)
– 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」関連情報(一般社団法人日本老年医学会、2025年)
– 日本老年医学会「65歳以上の成人で接種を検討すべきワクチン」(一般社団法人日本老年医学会)
– 厚生労働省「予防接種情報」(厚生労働省)
最終更新日:2026年9月10日


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