公開日:2026年7月24日 / 最終確認日:2026年7月24日
フォーカスKW:成年後見人 横領 トラブル リスク
カテゴリ:認知症・成年後見
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。また、本記事で言及する個別事案は、報道時点で懲戒処分の手続きが開始された段階のものであり、事実関係はあくまで「疑い」です。有罪が確定した事実として断定するものではありません。
2026年7月22日、東京弁護士会が一つの発表をしました。
所属する弁護士が、成年後見人として管理していた女性の自宅売却代金(約四千数百万円)を自分の口座に振り込ませ、返還していない疑いがあるというのです。女性の口座からは親族に無断で計1,000万円以上が引き出され、家庭裁判所への定期報告では、引き出し記録を改ざんした通帳の写しが提出されていた疑いも報じられています。同様の被害相談は、すでに65件寄せられているとのことです。
同会は綱紀委員会に調査を命令し、懲戒処分に向けた手続きが始まりました。刑事告発も検討段階とされています。本記事執筆時点では、あくまで「疑い」の段階であり、処分や刑事責任が確定した事実ではありません。
このニュースを見て、こう思った方も多いのではないでしょうか。
「後見人に財産を託していたはずなのに、なぜ守られるどころか奪われるのか」
本記事で理解できること:
- 2026年7月に報じられた懲戒事案の事実関係(「疑い」の段階を正確に)
- 成年後見人による横領・不正がなくならない構造的な理由
- 専門家・親族それぞれのトラブル事例と統計データ
- トラブル発覚後にできる対処法と、その限界
- 認知症発症前にしか実行できない、4つの事前対策
何が起きたのか——東京弁護士会の懲戒処分手続き開始(2026年7月)
東京弁護士会の発表によると、対象の弁護士は2024年に東京家庭裁判所から成年後見人に選任され、女性の財産管理を任されていました。
報道されている疑いの内容は、次の3点です。
- 女性宅の売却代金(約四千数百万円)を自分の口座に振り込ませ、返還していない疑い
- 管理していた女性の口座から、親族に無断で計1,000万円以上を引き出した疑い
- 家庭裁判所への定期報告時に、引き出し記録を改ざんした通帳の写しを提出していた疑い
東京弁護士会は綱紀委員会に調査を命令し、懲戒処分に向けた手続きを開始しました。同様の被害相談は65件寄せられており、今後は相談窓口の設置や刑事告発も検討されるとのことです。
この段階で強調しておきたいのは、これらがすべて「疑い」であるという点です。 懲戒処分の手続きが開始されたことと、処分内容や刑事責任が確定することは別の段階にあります。本記事は、この個別事案の是非を断定するためのものではなく、「なぜこうした疑いが繰り返し報じられるのか」という構造の理解を目的としています。
なぜ後見人による不正はなくならないのか——「性善説」で設計された制度の構造的な問題
成年後見制度そのものは、判断能力が低下した人を守るための、必要性の高い制度です。ここで指摘したいのは、制度が悪いということではありません。
問題は、制度の運用が「後見人は本人のために誠実に働く」という性善説を前提に設計されていることです。
家庭裁判所は後見人を選任した後、年に1回程度の定期報告を求める形で監督します。しかし日々の入出金を逐一チェックする体制ではなく、通帳の写しや報告書という「後見人自身が作成する書類」が主な確認手段になります。今回の事案で報じられた「通帳の改ざん」が疑われる余地が生まれるのは、この構造ゆえです。
数字で見ても、不正は珍しい出来事ではありません。
- 2024年の後見人等による不正事例は188件、被害総額は約7億9,000万円
- 内訳は親族後見人が17.1%、弁護士が25.7%、司法書士が34.7%——専門家による不正が全体の82.9%を占める
- 広島弁護士会では、女性弁護士が3人の被後見人から1億3,000万円超を横領した事案で懲役5年が求刑された
「専門家なら安心」とは言い切れない実態が、数字にあらわれています。本人が後見人を選べない仕組みである以上、選ばれた人の内面までは制度が保証してくれません。この構造的な問題については、前回の記事「法定後見制度の7つの問題点」でも詳しく解説しています。
成年後見人トラブルの主な種類——横領だけではない
後見人トラブルは、横領だけにとどまりません。実際に報告されている主なパターンを整理します。
①財産の着服・横領
もっとも深刻なパターンです。業務上横領罪に該当する可能性があり、10年以下の拘禁刑が科されうる重大な犯罪類型とされています。今回の東京弁護士会の事案や、広島弁護士会の1億3,000万円超の事案がこれにあたります。兵庫県の司法書士事務所では、補助者が2,300万円以上を横領し、監督責任を問われた司法書士が業務停止1ヶ月の懲戒処分を受けた例も報告されています。
②生活費の不当な制限
後見人の使命は「本人の財産を守ること」に置かれるため、家族が「本人も喜ぶはずだ」と考える支出であっても、後見人の判断で認められないことがあります。介護のためのリフォーム費用、孫へのお祝い金、生前贈与などが典型例です。
③高額報酬の継続請求
本来、後見人報酬は本人の財産規模に応じて月数万円〜十数万円が相場です。しかし報告されている事例の中には、裁判所の許可を得ないまま毎月30万円以上を引き出し続けていたケースもあります。関連企業との不透明な取引が見つかったという報告もあります。
④親族後見人によるトラブル
専門家だけの問題ではありません。ある事例では、複数の子がいる家庭で、一人の子が6年間にわたり数千万円の財産を使い込んでいたことが発覚しました。月100万円近い収入がまったく残っていない状況から発覚したといいます。
また、任意後見契約を悪用したとみられる事例も報告されています。入院中の母と、海外留学中の娘という状況で、母の兄が任意後見契約を締結し、月10万円の報酬を得ながら財産の大半を受け取る内容の遺言を作成させ、母の死後には財産がほとんど残っていなかったというものです。「家族なら安心」とも言い切れないのが実情です。
トラブルが起きてしまった後の対処法——できること、その限界
すでにトラブルが起きている、あるいは疑いがある場合、家族が取れる手段は次の通りです。
- 家庭裁判所への報告・相談:不審な点があれば、まず後見開始の審判をした家庭裁判所に相談します。
- 後見監督人の選任請求:後見人の業務を監督する第三者の選任を、家庭裁判所に申し立てられます。
- 解任請求:不正行為や著しい業務不履行があれば、後見人の解任を申し立てられます。2024年には372件の申立があり、94件が認められています。
- 法テラスへの相談:法的な手続きの進め方について、法テラスで無料相談の案内を受けられます。
- 弁護士による横領の場合の見舞金制度:所属弁護士会や日本弁護士連合会が設ける被害者見舞金制度の利用を検討できます。
ただし、これらの手段には限界があります。解任や監督人選任が認められても、すでに使い込まれた財産が全額戻ってくる保証はありません。刑事告発や民事訴訟には時間と費用がかかり、発覚から解決までの間、家族は大きな心理的・金銭的な負担を抱え続けることになります。
「取り戻せるかどうか分からない」という不安を抱えたまま数年を過ごす家族は、決して少なくありません。だからこそ次章で解説する「事前の対策」に意味があります。
事前に防ぐ4つの方法——タイムリミットは「認知症発症前」
発覚後の対処には限界がある一方、判断能力があるうちに手を打てば、トラブルの多くはそもそも防げます。代表的な4つの方法を紹介します。
①家族信託
本人が元気なうちに、信頼できる家族と信託契約を結んでおく方法です。認知症発症後も、家庭裁判所を通さずに家族が財産を柔軟に管理・運用・処分できるようになります。第三者の監督を介さない分、契約時に受託者を誰にするか、慎重に検討する必要があります。
②任意後見(家族を後見人に指定しておく)
法定後見と異なり、後見人になってほしい人を本人が事前に指定できる制度です。家庭裁判所が選ぶ法定後見と違い、信頼する家族を後見人候補にできます。発効後は任意後見監督人が選任され、一定の監督のもとで運用される点も安心材料です。
③生前贈与
年間110万円の非課税枠を使い、判断能力があるうちに少しずつ財産を移転しておく方法です。財産そのものを後見制度の管理対象から外していく発想であり、贈与契約書を都度作成し記録を残すことが重要です。なお2024年の税制改正で、相続開始前の贈与の持ち戻し期間が3年から7年に延長されています。詳しくは国税庁「贈与税」もご確認ください。
④死後事務委任契約
成年後見制度は本人の死亡と同時に終了し、後見人には死後の手続きを行う権限がありません。葬儀・埋葬の手配や行政手続き、SNSアカウントの整理などを誰に託すかを、生前に契約で決めておく方法です。
これら4つの方法には共通点があります。すべて「本人の判断能力があるうち」にしか実行できないということです。家族信託と任意後見の違いや、共同後見人制度も含めた回避策の詳細は、以前の記事「成年後見制度の「闇」を回避する4つの方法」でさらに詳しく比較しています。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 成年後見人による横領が疑われる場合、家族はまず何をすべきですか?
まずは後見開始の審判をした家庭裁判所に相談してください。通帳の写しや報告内容に不審な点があれば、その旨を具体的に伝え、後見監督人の選任や解任請求といった手続きの可能性を確認します。
Q2. 親族が後見人であれば、横領は起こりにくいのですか?
そうとは言い切れません。専門家による不正が件数・被害額ともに大きな割合を占める一方、親族後見人による使い込みも実際に報告されています。「家族だから安心」という前提だけに頼らない備えが必要です。
Q3. 家族信託と任意後見、どちらを優先すべきですか?
目的が異なります。家族信託は財産管理・運用・処分に強く、任意後見は医療・介護契約などの身上監護までカバーできます。財産の状況や家族構成によって最適な組み合わせは変わるため、司法書士・弁護士への相談を前提に検討してください。
Q4. すでに認知症の診断を受けた家族がいる場合、事前対策は間に合いませんか?
本記事で紹介した4つの方法は、いずれも本人の判断能力があることが前提の契約行為です。診断後で判断能力が失われている場合、これらの契約を新たに結ぶことは難しくなります。その場合は法定後見制度の利用を検討することになります。
Q5. 弁護士や司法書士による横領が疑われる場合、費用をかけずに相談できる窓口はありますか?
法テラスでは、収入等の要件を満たせば無料の法律相談を利用できます。弁護士会や日本弁護士連合会が設ける被害者見舞金制度についても、所属弁護士会への確認が可能です。
Q6. DENのエンディングノートには、家族信託や任意後見の契約情報も記録できますか?
はい、記録できます。契約書の保管場所、受託者・後見人の連絡先、契約内容の要点などを暗号化した形で残せるため、いざという時に家族が「どこに何があるか」をすぐに把握できます。
まとめ:制度の構造を知り、判断能力があるうちに動く
2026年7月に報じられた東京弁護士会の懲戒処分手続き開始のニュースは、成年後見制度が抱える構造的な課題をあらためて浮き彫りにしました。
- 制度は「後見人が誠実に働く」という性善説を前提に設計されている
- 2024年の不正事例は188件・被害額約7億9,000万円、専門家によるものが82.9%を占める
- 横領だけでなく、生活費の不当な制限や高額報酬の継続請求、親族後見人によるトラブルもある
- 発覚後の対処(後見監督人選任・解任請求・法テラス相談等)はできるが、全額回復の保証はなく心理的・金銭的負担は大きい
- 事前対策(家族信託・任意後見・生前贈与・死後事務委任契約)は、すべて「判断能力があるうち」にしか実行できない
今日できる1アクション:
- 家族で「今の財産管理を誰に、どう託すか」を話し合う
- 家族信託・任意後見について、司法書士・弁護士に相談する
- 契約情報をDENなどで安全に記録し、家族が把握できる状態にしておく
制度に頼るタイミングが来てからでは、選べる対策は限られています。判断能力があるうちに動くことが、財産と家族関係の両方を守る最も確実な方法です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。本記事で言及した個別事案は、報道時点で懲戒処分の手続きが開始された段階の「疑い」であり、事実関係が確定したものではありません。


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