「実家をそのまま相続して住み続けるだけだから、面倒な手続きはいらないだろう」——そう考えている方は少なくない。売却するわけでも、誰かと財産を分け合って揉めるわけでもない。今までどおり住み続けるだけなのだから、と。
しかし、それは大きな誤解だ。相続した不動産にそのまま住み続ける場合でも、名義変更(相続登記)・固定資産税の変更手続き・保険や公共料金の名義変更など、やるべき手続きは数多くある。中でも相続登記は2024年4月から義務化され、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になる。
この記事では、「売却せずそのまま住み続ける」ケースに絞って、必要な手続きを実務的に整理する(マンションを相続するケースの区分所有特有のポイントはマンション相続の手続き完全ガイドで解説している)。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務相談ではありません。個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。記事内の情報は作成時点(2026年9月)のものであり、法改正等により変更される場合があります。
相続不動産にそのまま住む場合の手続き全体フロー【6ステップ】
まず全体像を押さえておこう。相続した不動産に住み続ける場合でも、次の6つのステップを踏む必要がある。
- 遺産分割協議——相続人全員で、誰がこの不動産を相続するかを話し合って決める(詳しい書き方は遺産分割協議書の書き方完全ガイドを参照)
- 相続登記——法務局に申請し、不動産の名義を被相続人から相続人へ変更する
- 固定資産税の名義変更——不動産のある市区町村役場に届け出る
- 住所変更手続き——被相続人と同居していなかった相続人が転居する場合、住民票・マイナンバーの変更が必要
- 火災保険・地震保険の名義変更——保険会社に契約者変更を届け出る
- 公共料金・各種契約の名義変更——電気・ガス・水道・NHK受信契約など
| ステップ | 手続き先 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| ①遺産分割協議 | 相続人同士 | 相続税申告が必要なら10ヶ月以内が目安 |
| ②相続登記 | 法務局 | 取得を知った日から3年以内(義務) |
| ③固定資産税の名義変更 | 市区町村役場 | 相続登記が済み次第、または現所有者申告書を速やかに |
| ④住所変更 | 市区町村役場 | 転居から14日以内 |
| ⑤火災保険・地震保険 | 保険会社 | 名義人の死亡後、速やかに |
| ⑥公共料金等 | 各契約先 | 名義人の死亡後、速やかに |
このうち特に見落とされがちなのが「そのまま住むのだから固定資産税は今までどおりで問題ない」という思い込みと、「相続登記は急がなくてもいい」という誤解だ。次章から順番に見ていく。
最重要|相続登記(名義変更)は2024年4月から義務化・3年以内
相続不動産にそのまま住み続ける場合でも、名義は自動的には変わらない。所有者を被相続人から相続人へ変更する手続きが「相続登記」であり、2024年(令和6年)4月1日から申請が義務化された。
不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料が科される可能性がある。2024年4月1日より前に発生していた相続についても、この義務化の対象となる点に注意が必要だ。
なぜ「住むだけ」でも相続登記が必要なのか
売却や賃貸活用の予定がなければ登記を後回しにしても実害はない、と考えがちだが、そうではない。名義が被相続人のままだと、将来的に次の相続(二次相続)が発生した際に相続人がさらに増え、遺産分割協議が複雑化するリスクが高まる。また、名義未変更のまま長期間放置された不動産は「所有者不明土地・建物」問題の一因ともなっており、これが義務化の背景にある。
売却予定がない不動産こそ、後回しにされやすく、結果として何世代にもわたって名義が塩漬けになるケースが実際に多く見られる。
相続登記の基本的な流れ
- 相続人の確定(戸籍謄本一式の収集)
- 遺産分割協議書の作成(相続人全員の実印・印鑑証明添付)
- 登記申請書の作成
- 必要書類を揃えて法務局へ申請(登録免許税は固定資産税評価額の0.4%)
自分で手続きすることも可能だが、戸籍の収集や書類作成に手間がかかるため、司法書士に依頼するケースが多い。具体的な必要書類や記載方法は、法務局が公開している登記手続ハンドブックで確認できる。義務化の詳しい期限・罰則については、相続登記の義務化完全ガイドで詳しく解説している。
→ 相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック)|法務局
2026年に始まる関連制度にも注意
2026年(令和8年)2月2日からは、亡くなった人が登記名義人となっている不動産を一覧でリスト化できる「所有不動産記録証明制度」が始まる。相続対象の不動産に漏れがないかを確認する際に活用できる制度だ。
さらに2026年4月1日からは、氏名や住所の変更登記も義務化される。相続登記が完了した後、相続人自身が転居や氏名変更をした場合は、その変更日から2年以内に変更登記が必要になる点も覚えておきたい。
見落としがちな盲点|相続登記前でも固定資産税は請求される
「相続登記がまだ済んでいないから、固定資産税の請求も来ないだろう」——これも実務上よくある誤解だ。
固定資産税は毎年1月1日時点の所有者に課税される
固定資産税は、その年の1月1日時点で固定資産課税台帳に所有者として登録されている人に対して課税される。名義人が亡くなった後、相続登記が完了していなくても、翌年以降の固定資産税は法定相続人に対して請求が来る。市区町村は戸籍等の情報から相続人を把握し、納税義務者として扱うためだ。
相続人全員が「連帯納税義務」を負う
遺産分割協議がまとまっていない段階では、相続人全員が固定資産税の連帯納税義務を負う。実務上は、相続人の中から「相続人代表者」を1人選び、「相続人代表者指定届兼固定資産現所有者申告書」を市区町村に提出するのが一般的だ。この代表者が納税通知書を受け取り、いったん立て替えて支払う形になる。
代表者が全額を立て替えて支払った場合、他の相続人に対して各自の相続割合に応じた分を請求する権利(求償権)を持つ。誰がいくら負担するかは、遺産分割協議の中であわせて取り決めておくとトラブルを避けやすい。
名義変更が間に合わないときの届出
相続登記の手続きに時間がかかり、名義変更が固定資産税の賦課期日(1月1日)に間に合わない場合は、不動産所在地の市区町村に「固定資産現所有者申告書」を提出する必要がある自治体が多い。手続きの詳細は、各市区町村の税務担当窓口に確認するのが確実だ。
住宅ローンが残っている場合の手続き|団体信用生命保険(団信)を確認する
相続する実家やマンションに住宅ローンの残債がある場合、まず確認すべきは「団体信用生命保険(団信)」への加入有無だ。
団信に加入していれば、ローンは完済されるケースが多い
団信は、住宅ローンの契約者が死亡した場合に、生命保険会社から金融機関へ保険金が支払われ、残債が完済される仕組みの保険だ。多くの住宅ローンでは加入が必須条件となっているため、団信に加入していれば、相続人がローンの返済を引き継ぐ必要はなくなる。
保険金は金融機関へ直接支払われ、相続人が受け取るものではないため、原則として相続税の課税対象にもならない。
やるべきことは「金融機関への死亡連絡」
団信の保険金請求手続きは、相続人からの死亡の連絡が起点となる。ローンを組んでいた金融機関に連絡し、必要書類(死亡診断書の写し、団信弁済届など)を提出することで、金融機関側が保険会社に保険金を請求する流れになる。連絡が遅れるとローンの返済が滞っているとみなされる可能性もあるため、できるだけ早めに連絡することが望ましい。
団信未加入・残債が残る場合は要注意
団信に加入していない、あるいは連帯債務・ペアローンの一部にしか団信が付いていないケースでは、住宅ローンの残債は相続の対象となる。相続放棄をしない限り、相続人が返済義務を引き継ぐことになるため、団信の加入状況が不明な場合は速やかに金融機関へ確認したい。
同居していた家族なら要チェック|小規模宅地等の特例(評価額80%減)
相続税の申告が必要なケースでは、「小規模宅地等の特例」の適用可否を必ず確認したい。被相続人と同居していた配偶者や子が自宅の土地を相続する場合、一定の要件を満たせば、土地の評価額を最大80%減額できる制度だ。評価額が下がれば相続税の負担も大きく軽減される。
主な適用要件
- 配偶者が相続する場合:無条件で適用可能(同居・所有継続の要件なし)
- 同居していた子などの親族が相続する場合:相続開始の直前から相続税の申告期限まで継続してその家屋に居住し、かつ申告期限までその宅地を所有していること
- 別居していた親族の場合:「家なき子特例」として別の要件が定められている(持ち家がないことなど、条件は厳格)
申告期限は相続開始から10ヶ月以内という緊急性
この特例を受けるには、相続税の申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに申告書を提出する必要がある。「そのまま住み続けるだけだから急がなくていい」と考えていると、この10ヶ月という期限を見落としがちだ。相続税申告以外にも様々な期限があるため、相続手続きの期限一覧もあわせて確認しておきたい。
小規模宅地等の特例は、遺産分割が確定していないと原則として適用できない。特例の適用を受けるためにも、遺産分割協議を早めに進めておく必要がある。制度の詳細は国税庁の公式サイトで確認できる。
→ 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例|国税庁
火災保険・公共料金など見落としがちな名義変更
不動産関連の手続きというと相続登記や固定資産税に意識が向きがちだが、住み続ける上で実務的に重要なのが火災保険と公共料金の名義変更だ。
火災保険・地震保険の名義変更
建物の火災保険・地震保険は、契約者が被相続人のままになっているケースが多い。契約者名義が亡くなった人のままだと、万一の火災や災害の際に保険金の請求手続きが煩雑になったり、契約内容によっては補償が適切に受けられなかったりするおそれがある。保険会社に連絡し、契約者を相続人へ変更する手続きを行っておきたい。
電気・ガス・水道・NHKなどの契約変更
そのまま住み続ける場合でも、電気・ガス・水道といった公共料金や、NHK受信契約、インターネット回線などの契約者名義は変更が必要になる。多くは電話やウェブサイトから比較的簡単に手続きできるが、忘れられがちなため、相続登記や固定資産税の手続きと合わせてチェックリスト化しておくとよい。
相続不動産の情報、家族に伝わっていますか?
ここまで見てきたように、相続した不動産にそのまま住み続ける場合でも、名義変更・固定資産税・住宅ローン・保険・公共料金と、確認すべき手続きは多岐にわたる。これらをスムーズに進める上で大きな障害となるのが「情報が本人にしかわからない」という問題だ。
- 住宅ローンの残高や団信の加入状況
- 火災保険の契約先・証券番号
- 固定資産税の納税通知書がどこにあるか
- 不動産の権利証(登記識別情報)の保管場所
こうした情報が整理されていないと、相続人は手続きの入り口で立ち止まってしまう。司法書士や税理士に相談する際も、情報が事前に整理されているかどうかで相談のスピードが大きく変わる。
DEN(デジタルエンディングノート)は、不動産・住宅ローン・保険契約といった情報を安全に一元管理し、いざというときに家族が迷わないよう備えるためのサービスだ。現在、サービス開始に向けてモニターを募集している。
相続の手続きは、遺産分割協議や相続登記など、専門知識が必要な場面が多い。判断に迷った際は、不動産の名義変更なら司法書士、相続税や特例の適用なら税理士へ、早めに相談することをおすすめする。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相続登記をしないとどうなりますか?
2024年4月以降、相続登記は義務化されており、不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料が科される可能性がある。また、名義変更を放置すると次の相続が発生した際に相続人がさらに増え、手続きがより複雑になるリスクもある。
Q2. 固定資産税は相続人の誰が払うのですか?
相続登記が完了するまでは、相続人全員が連帯して納税義務を負う。実務上は相続人代表者を1人選び、その代表者が納税通知書を受け取って支払い、他の相続人に対して負担分を求償するのが一般的だ。
Q3. 団信に加入していたかどうか分からない場合はどうすればよいですか?
住宅ローンを契約していた金融機関に問い合わせれば、団信の加入状況を確認できる。死亡の連絡と合わせて確認するとよい。
Q4. 小規模宅地等の特例の申告期限に間に合わない場合はどうなりますか?
原則として申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに遺産分割が確定し、申告書を提出する必要がある。分割協議がまとまらない場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで、後日特例の適用を受けられる可能性がある。個別の状況によって対応が異なるため、税理士に確認したい。
Q5. 相続人が複数いて、誰がその家に住むかで意見がまとまらない場合はどうすればよいですか?
遺産分割協議で合意できない場合、家庭裁判所での調停や審判に進むこともある。住み続ける相続人が他の相続人へ代償金を支払う「代償分割」や、配偶者が自宅に住み続けながら他の財産も確保できる「配偶者居住権」の活用など、選択肢は複数ある。早い段階で司法書士や弁護士に相談することをおすすめする。
Q6. 相続登記の必要書類は何ですか?
一般的には、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式、相続人全員の戸籍謄本・住民票、遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書、固定資産評価証明書などが必要になる。ケースによって必要書類は異なるため、法務局や司法書士に確認するのが確実だ。
まとめ
- 相続した不動産にそのまま住み続ける場合でも、名義変更を含む手続きは必須である
- 最重要なのは相続登記(名義変更)。2024年4月から義務化され、取得を知った日から3年以内に申請する必要がある
- 相続登記前でも、翌年以降の固定資産税は相続人全員に連帯して請求される
- 住宅ローンが残っている場合は、団信の加入状況をまず金融機関に確認する
- 同居していた家族が相続する場合は、小規模宅地等の特例(評価額80%減)と申告期限10ヶ月以内を必ずチェックする
- 火災保険・公共料金の名義変更も忘れずに行う
- 手続きをスムーズに進めるには、不動産・ローン・保険の情報を事前に整理しておくことが重要
「そのまま住むだけだから」という油断が、後々の手続きの遅れやトラブルにつながることは少なくない。全体のステップを把握し、早めに専門家へ相談しながら進めていきたい。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。記事内の情報は作成時点(2026年9月)のものであり、法改正等により変更される場合があります。
参考リンク(外部・公的機関)
- 相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック)|法務局
- 不動産の相続登記義務化!過去の相続分は?所有不動産を一覧的にリスト化する新制度も開始!|政府広報オンライン
- 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例|国税庁


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