相続手続きを始めようとすると、まず立ちはだかるのが「戸籍謄本を集めてください」という壁です。銀行や法務局の窓口でそう言われても、「戸籍謄本と除籍謄本はどう違うのか」「どこに何通請求すればいいのか」「本籍地が何度も変わっている場合はどうすればいいのか」——実際に手を動かそうとすると、疑問だらけになる方がほとんどではないでしょうか。
戸籍の収集は、相続手続きの中でも特に地味で手間のかかる作業ですが、ここでつまずくと、預金の解約も不動産の名義変更も一切先に進められません。本記事では、相続で必要な戸籍謄本の種類、集め方の具体的な手順、郵送請求の実務、そして手続きを大幅に楽にする法定相続情報証明制度まで、実践的にまとめて解説します。
相続で必要な戸籍謄本の4種類
相続手続きでは、状況に応じて次の4種類の証明書が必要になります。まずはそれぞれの違いを押さえておきましょう。
①戸籍謄本(現在の戸籍)
現在使われている戸籍の全部の内容を証明する書類です。相続人自身の現在の戸籍謄本は、相続人が生存していることを確認するために必要になります。
②改製原戸籍謄本(コンピュータ化前の戸籍)
法律の改正によって戸籍の様式が変わるたびに、それまで使われていた古い戸籍は「改製原戸籍」として閉鎖されます。代表的なものに昭和の法務省令による改製(昭和改製原戸籍)と、平成6年の法務省令によるコンピュータ化に伴う改製(平成改製原戸籍)の2種類があります。
③除籍謄本(全員が除籍された戸籍)
転籍(本籍地の変更)や、戸籍に記載されていた人全員の死亡・婚姻などによって、在籍者が一人もいなくなった戸籍のことです。改製原戸籍と除籍謄本はどちらも「現在は使われていない、閉鎖された戸籍」という点で共通していますが、閉鎖された理由が異なります。法改正による様式変更で閉鎖されたのが改製原戸籍、在籍者がいなくなったことで閉鎖されたのが除籍謄本です。
④戸籍の附票(住所履歴)
戸籍に記載されている人の住所の履歴を証明する書類です。不動産の相続登記で「登記簿上の住所」と「死亡時の住所」が異なる場合に、両者のつながりを証明する目的で必要になることがあります。
なぜ出生から死亡までの「連続した戸籍」が必要なのか
相続手続きでは、被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの、すべての戸籍・改製原戸籍・除籍謄本を、切れ目なく揃える必要があります。これは、法定相続人を漏れなく確定するための仕組みです。
出生から死亡までの戸籍を追うことで、被相続人の両親・兄弟姉妹・結婚歴・認知した子どもの有無などがすべて明らかになります。もし途中の戸籍が一通でも欠けていると、その期間に生まれた子や婚姻関係が反映されていない可能性があり、相続人を正しく確定できません。金融機関や法務局は、この連続性が確認できない限り手続きを進めてくれないため、一通の抜け漏れが、相続手続き全体を止めてしまうことになります。
被相続人が生涯で何度も転籍している場合や、婚姻・離婚を繰り返している場合、兄弟姉妹が相続人になる場合、代襲相続(相続人が先に亡くなっている場合に孫などが相続する)が発生する場合は、集めるべき戸籍の数がさらに多くなる傾向があります。
集め方の手順【4ステップ】
戸籍収集は、以下の順序で進めるのが基本です。
STEP1:死亡時の本籍地の市区町村で最新の戸籍を取得する
まずは被相続人が亡くなった時点の本籍地がある市区町村役場で、死亡の記載がある戸籍謄本を取得します。本籍地が分からない場合は、本籍地の記載がある住民票(除票)を先に取得すれば確認できます。
STEP2:戸籍をさかのぼって改製原戸籍・除籍謄本を収集する
取得した戸籍には、「従前の戸籍(一つ前の戸籍)」の情報が記載されています。その情報をもとに、一つ前の戸籍を請求し、さらにその戸籍に記載された従前情報をもとに、また一つ前の戸籍を請求する——これを出生まで繰り返します。
STEP3:本籍地が変わっている場合は複数の市区町村に請求する
転籍によって本籍地が変わっている場合、その分だけ請求先の市区町村も変わります。1つの市区町村ですべてが揃うとは限らない点に注意が必要です。
STEP4:郵送請求の方法(遠方の場合)
本籍地が遠方にある場合は、窓口に出向かなくても郵送で請求できます。具体的な方法は後述します。
本籍地が転々としている場合の集め方|2024年広域交付制度も活用
被相続人が転勤や結婚などで本籍地を何度も変更している場合、それぞれの本籍地に個別に請求する必要があり、収集作業が長期化しやすいポイントです。
こうした負担を軽減するため、2024年3月1日に戸籍法が改正され、戸籍証明書の広域交付制度が始まりました。この制度により、配偶者・直系親族(父母・祖父母・子・孫など)は、本籍地がどこであっても、最寄りの市区町村窓口で出生から死亡までの戸籍をまとめて請求できるようになっています。全国各地に本籍地が点在していても、1か所の窓口でまとめて取得できる点は大きなメリットです。
ただし、広域交付制度には次の制約がある点に注意してください。
- 請求できるのは本人が窓口に出向く場合のみで、郵送請求や代理人による請求はできない
- 兄弟姉妹の戸籍を取得したい場合は対象外で、従来どおり本籍地の市区町村に請求する必要がある
- コンピュータ化されていない古い戸籍の一部など、広域交付の対象にならない証明書もある
窓口に出向くのが難しい場合や、広域交付の対象外となるケースでは、次に説明する郵送請求を利用することになります。
郵送請求の実務|定額小為替・返信用封筒の準備
遠方の本籍地に請求する場合、多くの市区町村では郵送での交付請求を受け付けています。郵送請求で必要になる主なものは以下のとおりです。
- 交付請求書:各市区町村のウェブサイトから様式をダウンロードするか、便箋等に必要事項を記載
- 本人確認書類のコピー:運転免許証やマイナンバーカードなど
- 手数料分の定額小為替:現金の代わりに手数料の支払いに使う証書
- 返信用封筒:宛先を記入し、切手を貼ったもの
- 請求理由が分かる資料:相続手続きのための請求であることが分かる説明(被相続人との続柄が分かる戸籍のコピーなど)
定額小為替は、郵便局の窓口でのみ購入できる証書で、銀行やコンビニでは取り扱っていません。50円から1,000円まで複数の額面があり、必要な手数料に応じて組み合わせて用意します。定額小為替そのものには何も記入せず、そのまま封筒に同封するのが基本的なルールです。
戸籍を何通請求すればよいか、出発点の段階では正確に分からないことも多いため、「不足分がある場合は追加で送付してほしい」旨を一筆添えておくと、やり取りの往復を減らせます。
戸籍の読み方の基本|続柄・記号・用語
戸籍謄本を実際に受け取ると、独特の言い回しや記載形式に戸惑う方が少なくありません。基本的な読み方のポイントを押さえておきましょう。
- 続柄:戸籍の筆頭者との関係を示す表記です。「長男」「二女」のように生まれた順番が記載され、養子の場合は「養子」「養女」と記載されます。
- 戸籍の身分事項:出生・婚姻・離婚・死亡・認知・養子縁組など、その人に関する法律上の出来事が時系列で記載されています。相続人を確定する際は、この身分事項の欄を丁寧に確認することが重要です。
- 改製の記載:改製原戸籍には「〇年〇月〇日改製につき記載」といった記載があり、いつ、どの法令に基づいて改製されたかが分かります。
- 除籍の記載:除籍謄本には、在籍者が除籍された理由(婚姻・死亡・転籍など)と日付が個別に記載されます。
読み方に不安がある場合や、記載内容から相続関係が複雑だと分かった場合は、無理に自己判断せず、早い段階で司法書士や弁護士に確認することをおすすめします。
費用一覧
戸籍関連書類の手数料は、一般的な目安として以下のとおりです。
| 書類の種類 | 手数料の目安(1通あたり) |
|---|---|
| 戸籍謄本(全部事項証明書) | 450円 |
| 除籍謄本 | 750円 |
| 改製原戸籍謄本 | 750円 |
| 戸籍の附票 | 300円前後 |
出生から死亡までの戸籍一式を集めると、対象になる戸籍の数によっては合計で数千円になることも珍しくありません。
※手数料は市区町村によって異なる場合があり、また改定される可能性があります。請求前に、必ず本籍地の市区町村の公式ホームページ等で最新の手数料をご確認ください。
取得できる人
戸籍謄本を請求できるのは、原則として次のいずれかに該当する人です。
- 戸籍に記載されている本人
- 本人の配偶者
- 直系尊属(父母・祖父母など)
- 直系卑属(子・孫など)
- 上記以外の人が請求する場合は、自己の権利の行使や義務の履行のために必要であることなど、正当な理由を示す必要があります
相続手続きのために被相続人の戸籍を取得する場合は、相続人であることを示す資料(自身の戸籍謄本など)とあわせて請求することになります。委任状があれば、司法書士や弁護士などの専門家に取得を代行してもらうことも可能です。
法定相続情報証明制度で手続きを楽にする
戸籍を出生から死亡まで集め終えたあとも、預金の解約、不動産の相続登記、相続税の申告など、複数の手続きでそのつど戸籍一式の提出を求められることになります。ここで活用したいのが、法定相続情報証明制度です。
この制度は、収集した戸籍一式と、被相続人・相続人の関係を一覧にした「法定相続情報一覧図」を法務局に提出すると、登記官が内容を確認したうえで認証文付きの一覧図の写しを交付してくれる仕組みです。以後の相続手続きでは、戸籍の束の代わりにこの一覧図の写し1枚を提出すれば足りるようになります。
主なメリットは次のとおりです。
- 申出・一覧図の写しの発行にかかる費用は無料
- 複数の金融機関・法務局での手続きを同時並行で進めやすくなる
- 各提出先で戸籍一式を都度確認してもらう手間が省ける
- 2024年からオンライン申請にも対応し、利便性が高まっている
一方で、一覧図の作成そのものに一定の手間がかかることや、民間の金融機関・保険会社の一部では対応していないケースがある点には留意が必要です。相続財産の内容や提出先が多い場合ほど、この制度を活用するメリットは大きくなります。
戸籍謄本の保管場所をエンディングノートに記録する重要性
戸籍の収集は、相続が発生してから慌てて着手する方がほとんどですが、実は生前にできる備えもあります。それは、本籍地の履歴や、これまで取得したことのある戸籍関連書類の保管場所を、エンディングノートに記録しておくことです。
本籍地は、結婚や転居のたびに変更されることが多く、本人以外は正確に把握していないケースが少なくありません。生前に本籍地の履歴をメモしておくだけでも、相続人が戸籍を収集する際の手間が大きく軽減されます。また、法定相続情報一覧図の写しなど、すでに取得済みの証明書があれば、その保管場所を記録しておくことで、家族が二重に手続きをする無駄も防げます。
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※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律相談ではありません。戸籍の収集範囲や相続関係の確定は、被相続人の家族構成や本籍地の変遷によって個別性が高く、自己判断で進めると相続手続きが後戻りする可能性もあります。収集する戸籍の範囲に不安がある場合や、相続関係が複雑な場合は、必ず司法書士・弁護士などの専門家にご相談ください。記事内の手数料・制度内容は作成時点(2026年9月)のものであり、法改正や市区町村の規定変更により変更される場合があります。
まとめ|戸籍収集は「早め」に「専門家の力も借りながら」進める
相続で必要な戸籍謄本は、戸籍謄本・改製原戸籍謄本・除籍謄本・戸籍の附票の4種類に分かれ、被相続人の出生から死亡までを切れ目なく揃える必要があります。2024年の広域交付制度によって窓口での収集は以前より楽になりましたが、郵送請求が必要な場面や、対象外となるケースも残っています。
戸籍を集め終えたあとは、法定相続情報証明制度を活用することで、複数の手続きにかかる負担を大きく減らすことができます。収集の過程で相続関係が複雑だと分かった場合は、無理に自己判断せず、早い段階で司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
なお、相続手続き全体の期限や、遺産分割協議書の作成方法、相続登記の義務化については、関連記事で詳しく取り上げていますので、あわせてご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 戸籍謄本と戸籍抄本はどちらを取得すればよいですか?
A1. 「謄本」は戸籍全員分の内容を証明するもの、「抄本」は特定の個人の内容のみを抜粋したものです。相続手続きでは戸籍全体の内容が必要になるため、原則として謄本(全部事項証明書)を請求してください。
Q2. 戸籍謄本の取得に有効期限はありますか?
A2. 戸籍謄本そのものに有効期限はありませんが、提出先によっては「発行から〇か月以内」などの条件を独自に設けている場合があります。手続き先の要件を事前に確認してから取得することをおすすめします。
Q3. 本籍地が分からない場合はどうすればよいですか?
A3. 被相続人の本籍地が記載された住民票の除票を、死亡時の住所地の市区町村で取得すれば、本籍地を確認できます。
Q4. 兄弟姉妹が相続人になる場合、通常より多くの戸籍が必要になるのはなぜですか?
A4. 兄弟姉妹が相続人になるケースでは、被相続人だけでなく、被相続人の父母それぞれの出生から死亡までの戸籍もすべて確認し、他に兄弟姉妹がいないかを確定させる必要があるためです。収集する戸籍の数が大幅に増える傾向があります。
Q5. 戸籍の収集は自分でやるべきですか、専門家に依頼すべきですか?
A5. 本籍地の変更が少なく、相続関係がシンプルな場合は自分での収集も可能です。一方、転籍を繰り返している場合や、代襲相続・兄弟姉妹相続が絡む場合は、収集すべき範囲の判断が難しくなるため、司法書士や弁護士への依頼を検討することをおすすめします。
Q6. 法定相続情報証明制度は必ず利用しなければならないのですか?
A6. 利用は任意です。手続き先が1〜2か所程度で戸籍一式の提出でも負担が少ない場合は、必ずしも利用する必要はありません。金融機関や法務局など複数の提出先がある場合に、特にメリットを実感しやすい制度です。
Q7. 郵送請求から手元に届くまで、どのくらいの日数がかかりますか?
A7. 市区町村や時期によって異なりますが、1〜2週間程度を見込んでおくとよいでしょう。相続税申告など期限のある手続きと並行する場合は、早めに請求を開始することをおすすめします。
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参考
– 法務省「戸籍」
– 法務省「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)」(広域交付制度)
– 法務省「法定相続情報証明制度」について
(本記事は2026年9月時点の情報に基づいて作成しています。制度・手数料は今後の改正・更新により変更される場合があります。個別の戸籍収集範囲や相続手続きについては、必ず司法書士・弁護士など専門家にご相談ください。)


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