遺言書で指定した相続人が先に死亡したら?代襲相続との違いと予備的遺言による対処法
公開日:2026年8月10日 最終確認日:2026年8月10日
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。
「長男にすべて相続させる」と遺言書に書いていたのに、その長男が自分より先に亡くなってしまった——。高齢の親が長寿になった今、こうした「相続順序の逆転」は決して珍しい出来事ではありません。
このとき、多くの人が誤解しているのが「長男の子(孫)が自動的に代わりに相続するはずだ」という思い込みです。実は、法定相続と遺言書とでは、まったく異なるルールが適用されます。法定相続なら孫が代襲相続しますが、遺言書による指定は、原則としてその効力を失うだけで、孫に自動的には引き継がれません。
この記事を読むと、次のことがわかります。
- 法定相続と遺言書で「対応がまったく違う」理由
- 【法定相続】代襲相続で孫が相続する仕組み
- 【遺言書】民法994条により指定が無効になる仕組み
- 代襲相続が起こる場合・起こらない場合の違い(相続放棄・相続欠格・廃除)
- 予備的遺言(補充遺言)の具体的な文例
- 兄弟姉妹への遺言で見落としがちな代襲相続の範囲
- 遺言書を定期的に見直すべきタイミング
法定相続と遺言書、対応がまったく違う理由
相続人が先に死亡した場合の対応は、「法定相続」か「遺言書による指定」かで根本的に異なります。この違いを理解しないまま「代襲相続があるから大丈夫」と思い込んでいると、遺言者の意図とは違う結果になりかねません。
| 状況 | 法定相続の場合 | 遺言書で指定していた場合 |
|---|---|---|
| 子が先に死亡 | 代襲相続で孫が相続人になる | 遺贈・相続させる旨の指定が無効になる(民法994条) |
| 財産の行方 | 孫が自動的に承継 | 指定部分は法定相続人全員での遺産分割に戻る |
| 遺言者の意図 | ー(法律上自動的に決まる) | 反映されない可能性が高い |
| 対策 | 特に不要(制度として組み込み済み) | 予備的遺言(補充遺言)を書いておく必要がある |
つまり、「遺言書さえ書いておけば代襲相続と同じように孫に引き継がれる」というのは誤解です。法定相続のルールである代襲相続は、遺言書による個別の財産指定には、原則として適用されません。この違いを次章から順番に見ていきましょう。
【法定相続】子が先に死亡→代襲相続で孫が相続する仕組み
遺言書がない場合、相続は民法が定める法定相続のルールに従います。このとき本来相続人になるはずだった人が、被相続人より先に死亡していた場合に働くのが代襲相続です。
代襲相続とは、相続人となるべき人がすでに死亡している(または相続欠格・廃除に該当する)場合に、その人の子どもが代わりに相続人になる制度です。たとえば、被相続人に長男・次男の2人の子がいて、長男が被相続人より先に死亡していたとします。長男に子(被相続人から見て孫)がいれば、その孫が長男の代わりに相続人となり、次男とともに遺産を分けることになります。
代襲相続はどこまで続くのか
代襲相続が続く範囲は、相続人の順位によって異なります。
- 子(第一順位)の代襲相続:孫、さらにひ孫と、直系卑属である限り再代襲に制限はありません
- 兄弟姉妹(第三順位)の代襲相続:甥・姪までの一代限りで、甥・姪の子には及びません
この「兄弟姉妹は一代限り」という点は見落としやすいポイントです。詳しくは後述します。
代襲相続人になれるのは孫・甥姪
代襲相続人になれるのは、原則として第一順位の法定相続人(子)の子である「孫(ひ孫)」と、第三順位の法定相続人(兄弟姉妹)の子である「甥・姪」です。配偶者には代襲相続という考え方自体がありません(配偶者が先に死亡していれば、単に相続人から外れるだけです)。
法定相続における代襲相続は、こうして「遺言者が何もしなくても、法律上自動的に」機能する仕組みです。ところが、遺言書で財産の行き先を個別に指定していた場合は、話がまったく変わってきます。
【遺言書】長男に「全財産を相続させる」と書いていたら?(民法994条)
遺言書で「長男に全財産を相続させる」と書いていたのに、その長男が遺言者より先に死亡してしまった場合、どうなるでしょうか。
結論から言うと、その部分の遺言(遺贈または「相続させる」旨の指定)は効力を失います。根拠となるのが民法994条1項です。
民法994条1項:遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
条文の「死亡以前」には、遺言者と受遺者が同時に死亡した場合も含まれると解されています。つまり、長男が遺言者よりわずかでも先に、あるいは同時に亡くなっていれば、この規定が適用されます。
遺言書自体が無効になるわけではない
ここで重要なのは、遺言書全体が無効になるわけではないという点です。無効になるのは、あくまで「長男に相続させる」というその財産部分についての指定だけです。他に有効な条項(たとえば「長女には預金を相続させる」など)があれば、そちらは引き続き有効です。
無効になった部分はどうなるか
長男に相続させるとされていた財産は、指定が失効した結果、遺言者の法定相続人全員による遺産分割協議の対象に戻ります。
ここが法定相続の代襲相続との決定的な違いです。「長男の子(孫)が自動的に長男の代わりに相続する」わけではありません。遺言による個別の財産指定には、法定相続の代襲相続の規定がそのまま適用されるわけではないため、孫を含めた法定相続人全員での話し合いが必要になるのです。遺言者が「孫に継がせたい」と思っていたとしても、遺言書にその旨が明記されていなければ、意図通りにはなりません。
この盲点を防ぐ方法が、次に説明する「予備的遺言(補充遺言)」です。
代襲相続が起こる場合・起こらない場合【比較表】
代襲相続は、相続人が先に死亡していれば必ず発生するわけではありません。原因によって、代襲相続が発生する場合と発生しない場合があります。
| 相続権を失う原因 | 代襲相続の発生 | 理由 |
|---|---|---|
| 死亡(先に死亡) | 発生する | 相続人としての地位を子が引き継ぐ |
| 相続欠格(民法891条) | 発生する | 欠格事由は本人に限定され、子には及ばない |
| 廃除(民法892条・893条) | 発生する | 廃除も本人限定の効果 |
| 相続放棄 | 発生しない | 相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったものとみなされるため(民法939条) |
この中で特に誤解されやすいのが相続放棄です。「親が相続放棄したら、代わりに子(孫)が相続するのでは」と考える方が少なくありませんが、これは誤りです。相続放棄をした人は、法律上「最初から相続人ではなかった」ものとして扱われるため、代襲相続の対象にはなりません。相続放棄によって、その人の子が繰り上がって相続人になることはない点に注意が必要です。
対策①:予備的遺言(補充遺言)で備える
遺言書による指定が民法994条で無効になってしまう事態を避けるための有効な対策が、予備的遺言(補充遺言)です。
予備的遺言とは、財産を渡すと指定した相手が遺言者より先に(または同時に)死亡していた場合に備えて、次に財産を渡す相手をあらかじめ遺言書の中で指定しておく方法です。遺言の方式(自筆証書・公正証書・秘密証書)を問わず、必要な条項を加えるだけで作成できます。
予備的遺言の文例
第〇条 遺言者は、遺言者が所有する下記財産を、長男 〇〇〇〇(生年月日)
に相続させる。
(財産の表示)
第〇条 前条の長男〇〇〇〇が、遺言者より先に、または遺言者と同時に
死亡していたときは、遺言者は、前条記載の財産を長男の子
〇〇〇〇(生年月日)に相続させる。
このように「本来の相続人が先に(または同時に)死亡していた場合は、誰に承継させるか」を条文としてあらかじめ書き込んでおくことで、民法994条による失効を実質的に回避できます。
自筆証書遺言で予備的遺言を書く場合の注意点
自筆証書遺言の場合、予備的な補充条項も含めて遺言者本人が手書きする必要があります(財産目録部分を除く)。後から修正が必要になった場合は、次の手順を踏まなければ無効になるおそれがあります。
- 訂正箇所を二重線で消し、正しい内容を記載する
- 訂正箇所に押印する
- 遺言書の欄外に修正内容を付記し、署名・押印する
形式面での不備は無効リスクに直結するため、予備的遺言を含む遺言書を作成する際は、公正証書遺言を選ぶか、少なくとも専門家によるチェックを受けることをおすすめします。
兄弟姉妹に遺言を残す場合の注意点|代襲は甥姪まで
子がいない夫婦などでは、遺言書で兄弟姉妹に財産を残すケースがあります。このとき、法定相続における代襲相続の範囲を正しく理解していないと、思わぬ見落としにつながります。
先述の通り、法定相続で兄弟姉妹(第三順位)が相続人になる場合の代襲相続は、甥・姪までの一代限りです。子や孫であれば再代襲が何代でも続くのに対し、兄弟姉妹からの代襲相続には制限があります。仮に甥・姪もすでに死亡していたとしても、その子(甥・姪の子)には代襲相続が及びません。
遺言書でも「自動的な継承」は起きない
これは法定相続のルールですが、遺言書で「弟に相続させる」と指定していた場合も、その弟が先に死亡していれば、前述の民法994条により指定は無効になります。「兄弟姉妹の代襲は甥姪まで」というルールがあるからといって、遺言による指定が甥・姪に自動的に引き継がれるわけではありません。弟の子(甥・姪)に確実に財産を渡したいのであれば、ここでも予備的遺言によって明記しておく必要があります。
子や孫への遺言以上に、兄弟姉妹への遺言では「誰が最終的に財産を受け取ることになるのか」が見えにくくなりがちです。財産を渡したい相手の年齢や健康状態も踏まえて、慎重に検討することをおすすめします。
対策②:遺言書の定期的な見直し
予備的遺言を用意していても、それだけで安心とは言えません。家族構成や関係性は時間とともに変化するため、一度作った遺言書をそのままにしておくと、内容が実情と合わなくなってしまうことがあります。
後の遺言が優先される(民法1023条)
遺言書は、遺言者が生きている限り、何度でも書き直すことができます。複数の遺言書が存在し、内容に抵触する部分がある場合の扱いを定めているのが民法1023条です。
民法1023条1項:前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
つまり、日付の新しい遺言書の内容が優先されるということです。予備的遺言を追加したい場合や、指定していた相続人・受遺者が亡くなった場合には、遺言書を書き直すことで対応できます。
見直しのタイミングの目安
遺言書は「一度書いたら終わり」ではありません。次のようなタイミングで見直しを検討することをおすすめします。
- 概ね5年ごとの定期見直し
- 財産の内容が大きく変わったとき(不動産の売却・新規取得など)
- 指定していた相続人・受遺者が死亡したとき
- 家族に出生・死亡・婚姻・離婚などの変化があったとき
- 相続人との関係性に変化があったとき(疎遠・和解など)
こうした変化のたびに遺言書全体を作り直す必要はありませんが、少なくとも「今の遺言書の内容が、今の家族の状況と矛盾していないか」を定期的に確認する習慣が重要です。
DENのエンディングノートで「見直しのトリガー」を逃さない
遺言書の見直しが後回しになりがちな最大の理由は、「家族の状況が変わったこと」自体に気づきにくいからです。子や孫の結婚・離婚、疎遠になっていた親族との関係変化などは、日常生活の中では意識的に記録しない限り見過ごされがちです。
DENは、相続・遺言・終活に関する大切な情報を暗号化して安全に保管するデジタル終活サービスです。家族の出生・死亡・婚姻・離婚といった状況の変化を記録しておくことで、「そろそろ遺言書を見直すタイミングかもしれない」という気づきのきっかけとして活用できます。指定していた相続人が先に亡くなった場合の記録や、予備的遺言の検討メモを残しておく使い方も可能です。現在、サービス開始に向けてモニターを募集しています。
よくある質問
Q1. 遺言書で「長男に相続させる」と書いていた長男が先に死亡した場合、長男の子(孫)は何も相続できませんか?
長男の子が法定相続人(代襲相続人)である場合、他の相続人とともに遺産分割協議に参加し、話し合いの結果として財産を取得することは可能です。ただし、遺言書に基づいて「自動的に」長男の分をそのまま引き継げるわけではありません。確実に孫に渡したい場合は、予備的遺言で明記しておく必要があります。
Q2. 遺言者と受遺者が同時に死亡した場合(事故など)も、民法994条は適用されますか?
適用されます。民法994条1項の「死亡以前」には、遺言者と受遺者が同時に死亡した場合も含まれると解されています。したがって、同時死亡の場合も、その部分の遺贈・相続させる旨の指定は効力を生じません。
Q3. 相続放棄をした人の子は、代襲相続できますか?
できません。相続放棄をした人は、民法939条により「初めから相続人ではなかった」ものとみなされるため、代襲相続の原因にはなりません。これに対し、死亡・相続欠格・廃除は代襲相続の原因になります。
Q4. 予備的遺言はどの遺言方式でも作成できますか?
はい。自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言のいずれの方式でも、必要な補充条項を加えれば予備的遺言となります。ただし自筆証書遺言の場合は、補充条項も含めて本人が手書きする必要があり、訂正時の手続きにも厳格なルールがあるため注意が必要です。
Q5. 兄弟姉妹への遺言で、弟が先に死亡し、弟の子(甥)もすでに亡くなっていた場合はどうなりますか?
法定相続の代襲相続では、兄弟姉妹からの代襲は甥・姪までの一代限りとされており、甥・姪の子には及びません。遺言による指定であればなおさら、弟が先に死亡した時点で指定部分は無効になります。この場合の財産の行方を確実にしたいのであれば、予備的遺言で第三の承継先まで指定しておくことが有効です。
Q6. 遺言書を書き直すとき、前の遺言書は破棄する必要がありますか?
法律上は、内容が抵触する部分について後の遺言が優先されるため(民法1023条)、必ずしも前の遺言書を物理的に破棄する必要はありません。ただし、複数の遺言書が残っていると相続人が混乱し、トラブルの原因になりやすいため、実務上は前の遺言書を破棄するか「本遺言書により、遺言者が過去に作成した遺言をすべて撤回する」旨を明記しておくことをおすすめします。
まとめ|法定相続と遺言書は別ルール、備えは「予備的遺言」と「定期見直し」
遺言書で指定した相続人・受遺者が自分より先に死亡した場合の対応は、法定相続の代襲相続とは根本的に異なります。
- 法定相続:子が先に死亡→代襲相続で孫が相続人になる(法律上自動的に機能)
- 遺言書:指定していた相続人が先に死亡→その部分の指定は無効になる(民法994条)。孫への自動的な承継はない
- 代襲相続が起こらないケース:相続放棄(民法939条)。死亡・相続欠格・廃除では発生する
- 対策①:予備的遺言(補充遺言)で「次の承継先」をあらかじめ指定しておく
- 対策②:概ね5年ごと、または家族の状況変化のたびに遺言書を見直す。後の遺言が優先される(民法1023条)
- 兄弟姉妹への遺言は、代襲相続の範囲(甥姪まで・再代襲なし)を踏まえた慎重な検討が必要
「一度遺言書を作ったから安心」ではなく、家族の状況変化に合わせて見直し続けることが、遺言者の意図を確実に実現するための鍵になります。個別の事情に応じた対応については、弁護士・司法書士などの専門家への相談を強くおすすめします。
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執筆・監修について
本記事は、DEN編集部が相続・終活に関する公開情報をもとに作成しました。法律に関する内容については、弁護士・司法書士の監修を受けることを推奨します。個別の相談は専門家にお問い合わせください。
参考資料・外部リンク
– 法務省:相続に関するルールが大きく変わります
– 日本公証人連合会:遺言
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