「自分の財産を、亡くなったあとも社会のために役立てたい」——そう考えたとき、多くの方がまず思い浮かべるのは遺贈寄付かもしれません。しかし、財産を一度きりの寄付で終わらせるのではなく、専門家に運用を任せながら継続的に社会貢献へつなげられる制度があることは、あまり知られていません。それが「公益信託」です。
長らく手続きの煩雑さがネックとされてきた公益信託ですが、2024年の法改正によって仕組みが大きく変わり、2026年4月から新しい制度がすでに始まっています。この記事では、公益信託の基本的な仕組みから、改正によって何が変わったのか、そして相続税対策・社会貢献の両面でどう活用できるのかを整理します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務相談ではありません。個別の案件については、弁護士・税理士・信託会社など専門家にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。
本記事で理解できること
- 公益信託とはどのような制度か
- 2024年法改正で「許可制」から「認可制」に変わった内容
- 2026年4月から始まった新制度で何が変わったか
- 公益信託の4つのメリット
- 遺贈寄付との違い
- 相続税が非課税になる条件
- 公益信託が向いている人・向いていない人
順を追って見ていきましょう。
公益信託とは|財産を「公益活動のための基金」に変える仕組み
公益信託とは、委託者(財産を出す個人・法人)が、教育・福祉・環境保護・学術・文化などの公益目的のために、自分の財産を信託銀行などの受託者に託し、受託者がその公益目的に沿って財産を管理・運用しながら、社会に役立てていく制度です(出典:信託協会「公益信託」)。
似た制度に公益財団法人がありますが、公益信託は独自の事務所や専任職員を置く必要がなく、信託銀行などの受託者が運営を担うため、運営コストを抑えながら財産をそのまま公益活動の事業費に充てやすいという特徴があります。
イメージとしては、「自分の財産を専門家(信託銀行等)に預け、専門家がその財産を運用しながら、あらかじめ決めた公益目的のために使い続けてくれる仕組み」と考えるとわかりやすいでしょう。
2024年法改正で何が変わった?「許可制」から「認可制」へ
公益信託の根拠法は、大正時代に制定された「公益信託ニ関スル法律」でした。この法律のもとでは、公益信託を設立するには事業内容ごとに異なる主務官庁の許可を得る必要があり、窓口が省庁ごとにバラバラで手続きが煩雑だったことから、活用が伸び悩んでいました。
2024年5月22日、この課題を解消するための「公益信託に関する法律」が公布され、制度が全面的に改正されました。主な変更点は次の3つです。
- 許可制から認可制へ:主務官庁による許可・監督を廃止し、公益法人制度と共通の枠組みで、行政庁が公益認定等委員会(または都道府県の合議制機関)の意見に基づいて認可する方式に変更されました
- 窓口の一元化:これまでバラバラだった申請・相談窓口が一元化され、認可・監督の基準も統一されました
- 信託財産の範囲拡大:従来は事実上「金銭のみ」とされていた信託財産に、株式・不動産・有価証券なども加えられるようになりました
2026年4月、新制度がすでに始まっています
「公益信託に関する法律」は、公布から2年以内に施行するとされており、2026年4月1日から新しい公益信託制度が実際に始まっています(出典:内閣府「新公益信託制度が令和8年4月から始まります」)。
新制度では、認可を受けたすべての公益信託が公益法人並みの税制優遇を受けられるようになりました。具体的には、寄附者側の寄附金控除、信託財産の譲渡益にかかる譲渡所得の非課税、受託者が信託財産を運用して得た所得の非課税などが含まれます。
制度が始まって間もない今だからこそ、新しい認可基準や運用の実例が今後も更新されていく可能性があります。最新の情報は、内閣府や公益法人information(内閣府所管)などの公式情報で随時確認することをおすすめします。
公益信託の4つのメリット
改正後の公益信託には、遺贈寄付や生前贈与にはない特徴があります。代表的な4つのメリットを見ていきましょう。
①自分(法人)の名前を冠した基金が作れる
公益信託は、個人でも法人でも設立でき、自分の名前や会社名を冠した基金として設立することができます。「〇〇奨学基金」「〇〇福祉基金」のように、自分の想いを形にした名前を残しながら、継続的に社会貢献ができる点は、他の寄付の形にはない大きな特徴です。
②遺贈で設立すれば相続税が非課税になる場合がある
遺言によって公益信託を設立し、財産を信託財産として拠出した場合、一定の要件を満たせば、その財産は相続税の課税対象から除外されます。具体的な非課税の条件は後述します。
③改正後は少額からでも設立しやすくなった
従来の公益信託は、主務官庁の許可を得るハードルの高さから、まとまった大口の財産を持つ個人・法人が中心の制度でした。認可制への移行と窓口の一元化により、手続きの負担が軽減され、以前よりも設立しやすくなったといわれています。ただし、実際の設立には信託銀行等が定める最低金額の目安があるため、検討段階で受託者候補(信託銀行等)に直接確認することが重要です。
④信託銀行など専門家に運営を任せられる
公益信託の受託者は信託銀行など信託業を営む金融機関に限られます。財産の管理・運用・公益活動への支出は受託者が専門的に行うため、委託者自身が事務局を設けたり専任職員を雇ったりする必要がありません。「想いは託したいが、運営の手間は専門家に任せたい」という方に向いた仕組みといえます。
遺贈寄付との違い|「一度きりの寄付」と「継続する社会貢献」
社会貢献を目的とした財産の使い方として、公益信託とよく比較されるのが遺贈寄付です。両者の最も大きな違いは、財産の使われ方が「一度きり」か「継続的」かという点にあります。
| 比較項目 | 遺贈寄付 | 公益信託 |
|---|---|---|
| 財産の動き方 | 寄付先の団体に財産を一度移転する | 信託財産として管理・運用されながら継続的に活用される |
| 名前の残し方 | 基本的に団体側の裁量による | 自分の名前を冠した基金として設定できる |
| 運営の主体 | 寄付先の団体(NPO法人・公益法人等) | 信託銀行など受託者が専門的に管理 |
| 資金の使途 | 寄付先の裁量に委ねられることが多い | 委託者が定めた公益目的に沿って運用される |
遺贈寄付先の選び方については、当メディアの遺贈寄付先の選び方|怪しい団体を見抜く5つのチェックポイントと悪質な手口、遺贈寄付そのものの仕組みや相続税軽減の考え方については遺贈寄付で相続税を軽減|仕組み・メリット・注意点を事例で徹底解説 もあわせてご覧ください。
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公益信託の相続税非課税の条件
相続や遺贈によって取得した財産を、相続税の申告期限までに公益信託の信託財産とするために支出した場合、その財産は相続税の対象としない特例があります(出典:国税庁 No.4141「相続財産を公益法人などに寄附したとき」)。
この特例の適用を受けるための主な要件は次のとおりです。
- 寄附(拠出)した財産が、相続や遺贈によって取得した財産であること
- その財産を、相続税の申告書の提出期限(原則として相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)までに支出すること
- 支出先が、教育や科学の振興などに著しく貢献すると認められる特定の公益信託であること
非課税の対象となるかどうかは信託の内容や財産の種類によって細かく判断が分かれるため、実際の手続きにあたっては必ず税理士に事前確認することをおすすめします。
遺言書で公益信託を設立する場合のポイント
生前に設立するだけでなく、遺言によって死後に公益信託を設立することも可能です。遺言で公益信託を設立する場合、次のような点に注意が必要です。
- 受託者となる信託銀行等との事前相談:遺言執行時にスムーズに信託を組成できるよう、遺言作成の段階で受託者候補の信託銀行等に相談し、受け入れ可能かどうかを確認しておく
- 信託目的・対象財産の明記:どの財産を、どのような公益目的のために信託するのかを、遺言書に具体的に記載する
- 遺留分への配慮:他の相続人の遺留分を侵害しない範囲で財産配分を検討する
- 公正証書遺言の活用:内容の確実性と執行のしやすさから、公正証書遺言での作成が推奨される
遺言書の方式や作成手順については、公証役場または弁護士に相談しながら進めることが重要です。
公益信託が向いている人・向いていない人チェックリスト
向いている人
- まとまった資産があり、特定の社会課題(教育・福祉・環境等)に継続的に貢献したい人
- 自分や会社の名前を冠した基金を残したい人
- 財産の管理・運用を専門家に任せたい人
- 遺贈による相続税対策も同時に検討したい人
向いていない人・慎重な検討が必要な人
- 財産の使い道を自分で細かくコントロールし続けたい人(設定後は受託者が信託目的に沿って運用するため、委託者が個別の支出判断に都度関与する仕組みではありません)
- 少額の寄付を単発で行いたい人(遺贈寄付や単発の寄付の方が手続きがシンプルな場合があります)
- 家族の生活資金を優先したい人(公益信託に拠出した財産は公益目的に固定されるため、遺留分や家族への配分とのバランスを慎重に検討する必要があります)
DENのエンディングノートで公益信託の意向を記録する重要性
公益信託を検討している、あるいはすでに設立している場合、その意向や契約内容を家族に正しく伝えておくことが欠かせません。特に次のような情報は、口頭だけでは引き継がれにくく、記録として残しておく必要があります。
- 公益信託を設立したい(している)という意向そのもの
- 委託先として検討・契約している信託銀行等の名称・連絡先
- 信託目的・対象財産の内容
- 遺言書における公益信託関連の記載箇所
- 相談している弁護士・税理士の連絡先
これらの情報が家族や遺言執行者に伝わっていないと、せっかくの想いが実現されないまま相続手続きが進んでしまうおそれがあります。
DENは、こうした信託会社情報や専門家の連絡先、公益信託に関する意向など、相続・終活に関わる大切な情報を暗号化して安全に保管するデジタル終活サービスです。現在、サービス開始に向けてモニターを募集しています。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 公益信託は個人でも設立できますか?
A. はい、個人・法人のどちらでも設立できます。生前に自分で設立する方法と、遺言によって死後に設立する方法があります。
Q2. 公益信託の設立にはいくらくらい必要ですか?
A. 具体的な最低金額は受託者となる信託銀行等によって異なります。2024年の法改正後は設立ハードルが下がったといわれていますが、実際の目安金額は各金融機関に直接確認することをおすすめします。
Q3. 公益信託と遺贈寄付、どちらを選べばよいですか?
A. 一度きりの寄付で完結させたい場合は遺贈寄付、財産を専門家に運用させながら継続的に社会貢献につなげたい、あるいは自分の名前を冠した基金を残したい場合は公益信託が向いています。両者は目的が異なる仕組みのため、資産状況や想いに応じて税理士・信託銀行に相談しながら検討してください。
Q4. 公益信託への遺贈は必ず相続税が非課税になりますか?
A. いいえ、一定の要件(相続税の申告期限までの支出、特定の公益信託への支出であることなど)を満たした場合に限られます。非課税の適用可否は個別の事情によって異なるため、必ず税理士に確認してください。
Q5. 2026年4月の新制度施行前に設立された公益信託はどうなりますか?
A. 既存の公益信託の扱いについては、経過措置や移行手続きが定められています。既存の公益信託を持つ場合は、受託者である信託銀行等または内閣府の公式情報を確認してください。
Q6. 公益信託を設立したら、途中で内容を変更できますか?
A. 信託契約の内容変更は、信託の目的や契約条項、受託者との合意状況によって可否が異なります。設立前に、変更の可能性についても信託銀行等・弁護士に確認しておくことをおすすめします。
まとめ
2024年の法改正により、公益信託は「許可制」から「認可制」へと生まれ変わり、2026年4月から新しい制度がすでに始まっています。窓口の一元化や信託財産の範囲拡大によって、これまでよりも設立しやすい制度になりました。
自分や会社の名前を冠した基金を作れること、遺贈による相続税非課税の可能性があること、そして信託銀行など専門家に運営を任せられることは、遺贈寄付にはない公益信託ならではの魅力です。一方で、財産の使い道が公益目的に固定される点や、家族への配分とのバランスなど、慎重に検討すべき点もあります。
まとまった資産をお持ちで、特定の社会課題に継続的に貢献したいとお考えの方は、公益信託という選択肢を弁護士・税理士・信託銀行に相談しながら検討してみてはいかがでしょうか。そして、その想いを確実に家族に伝えるために、エンディングノートへの記録もあわせて進めておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務相談ではありません。個別の案件については、弁護士・税理士・信託会社など専門家にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。


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