認知症で成年後見人をつけないとどうなる?6つの問題点と発症前にしかできない4つの対策

テーブルの上で家族が寄り添うように手を重ねている写真:認知症と成年後見をめぐる家族の支え合いをイメージした一枚 認知症・成年後見

公開日:2026年9月11日/最終確認日:2026年9月10日
フォーカスKW:認知症 成年後見人 つけない 問題点 対策

「成年後見人だけは、できればつけたくない」

そう感じている方は、決して少なくありません。ご自身の老後について考えている方も、離れて暮らす親のことを心配している方も、この言葉には正直な理由があるはずです。費用のこと、誰が後見人になるのかわからない不安、家のお金のことを他人に管理されたくないという気持ち。どれも、責められるようなものではありません。

この記事では、その「つけたくない」という気持ちに向き合いながら、成年後見人をつけないまま認知症が進んだ場合に実際に何が起こるのかを、最高裁判所や全国銀行協会などの公的資料に基づいて具体的に整理します。そのうえで、「つける・つけない」の二択ではない、発症前にしかできない代替手段もあわせてご紹介します。

本記事でわかること
– 成年後見人を「つけたくない」と感じる理由への向き合い方
– 後見人をつけない場合に実際に起こる6つの問題
– 家族が「良かれと思って」財産を動かした場合の法的リスク
– 任意後見・家族信託など、発症前にしかできない4つの代替手段の比較
– 判断が難しくなる前に、今から準備できること

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。


「成年後見人をつけたくない」と感じる4つの理由

まず、その気持ちがどこから来ているのかを整理してみましょう。

① 費用が高く、しかも一生続く

成年後見制度を利用すると、後見人への報酬が発生します。しかもこの報酬は、本人が亡くなるまで、あるいは判断能力が回復するまで払い続けるものです。「一時的な出費」ではなく「終わりの見えない支出」であることが、大きな心理的負担になっています。

最高裁判所の調査(後述)を見ると、資産額が多い方ほど報酬額も高くなる傾向があり、資産1億円以上の方では年間70万円台の報酬が最も多いという結果も出ています。これは月額にすると6万円前後です。「資産があるからこそ、後見人をつけると負担が重くなる」という現実があります。

② 家族以外の専門家が選ばれることへの抵抗

「後見人は家族になる」と思っている方は多いのですが、実際には親族が選ばれるケースは全体の16.4%にとどまり、弁護士・司法書士・社会福祉士といった専門職が選ばれるケースが83.6%を占めています(最高裁判所「成年後見関係事件の概況」令和7年1月~12月)。

家族のことを一番よく知っているのは家族なのに、財産管理という大切な部分を会ったこともない専門家に委ねることになる。この点に抵抗を感じるのは、自然な感覚だと思います。

③ プライバシーの問題

後見人には、預貯金や不動産、収入や支出のすべてを開示することになります。家庭裁判所への定期的な報告義務もあります。「家計の中身をすべて他人に把握される」ということへの抵抗感は、資産の多寡にかかわらず誰にでもあるはずです。

④ 「まだ大丈夫」という気持ち

そして最も根強いのが、この気持ちではないでしょうか。「今のところ物忘れはあるが、日常生活に支障はない」「まだ自分で判断できている」。この感覚自体は間違っていません。ただし、この記事の後半でお伝えするとおり、対策を考えられるのは、まさに「まだ大丈夫」と思えているこの時期だけなのです。


【最高裁データ】後見人の報酬は実際いくらか|資産額別の実額分布

「月2〜6万円」という数字だけを聞くと漠然としていますが、最高裁判所が公表している「報酬に関する実情調査の集計結果(令和7年7月~12月)」では、後見人等が専門職(親族以外)の場合の年間報酬付与額が、本人の流動資産額(現金・預貯金・有価証券の合計)別にどう分布しているかがわかります。

本人の流動資産額 年間報酬額として最も多い階層
100万円未満 20万円台(73.9%)
100万円以上500万円未満 20万円台(80.2%)
1,000万円以上5,000万円未満 30万円台(54.0%)
5,000万円以上1億円未満 60万円台(50.3%)
1億円以上 70万円台(43.0%)

出典:最高裁判所事務総局家庭局「報酬に関する実情調査の集計結果について―令和7年7月~12月―」

年間70万円台ということは、月額にしておよそ6万円前後です。資産が多い方ほど、後見人が管理する財産の責任も重くなるため、報酬額も上がっていく構造になっています。この記事のような資産をお持ちの方にとって、「後見人をつけると生涯にわたって重い固定費が発生する」という不安は、決して大げさなものではないということが、公的データからも裏付けられています。

なお、鑑定(医師による判断能力の診断)が必要になった場合の費用は、多くが10万円以下です(厚生労働省「成年後見はやわかり」)。


成年後見人をつけない場合に起こる6つの問題点

ここからは、実際に後見人をつけないまま認知症が進んだ場合に、何が起こり得るのかを具体的に見ていきます。読んでいて苦しくなる内容も含まれますが、対策を考えるための出発点として、正直にお伝えします。

① 銀行口座が動かせなくなる

認知症の進行によって金融機関が「本人の意思確認ができない」と判断すると、口座からの引き出しや振込に制限がかかることがあります。全国銀行協会が2021年に公表した「金融取引の代理等に関する考え方」では、判断能力が低下した本人に代わって家族が引き出しを行うことについて、医療費の支払いなど本人の利益になることが明らかな場合に限り、極めて慎重な取扱いのもとで対応する考え方が示されています。つまり、家族だからといって自由に引き出せるわけではなく、金融機関ごとの個別判断に委ねられているのが実情です。

生活費や介護費用が必要なタイミングで口座が動かせなくなると、家族が一時的に立て替えるほかなくなり、家計に大きな負担がかかります。

② 不動産の売却・管理ができない

自宅を売って施設の入居費用に充てたい、空き家になった実家を処分したい――そう考えても、本人の判断能力が失われた状態では、不動産の売買契約を有効に結ぶことができません。後見人がいなければ、不動産は「動かせない資産」のまま固定資産税だけがかかり続けることになります。

③ 施設入居の契約ができない

介護施設や有料老人ホームへの入居には契約行為が必要です。本人の意思確認ができない状態で家族が代わりに契約書に署名しても、法的には無効とされる可能性があります。入居のタイミングで初めてこの壁にぶつかり、慌てて後見開始の申立てをする方も少なくありません。

④ 医療同意の問題

手術や特定の医療処置を行う際には、本人の同意が原則です。判断能力が失われている場合、家族が同意することが多いのが実務上の対応ですが、これは法律上の明確な権限として整理されているわけではありません。後見人にも、実は医療行為への同意権は原則として認められていないという点も、あまり知られていない事実です。この問題は制度そのものの限界でもあり、家族間で事前に意向を共有しておくことが重要になります。

⑤ 詐欺・悪質商法の被害リスクが高まる

判断能力が低下すると、訪問販売や電話勧誘による高額な契約、還付金詐欺などの被害に遭いやすくなります。後見人がいれば、本人が結んだ不利益な契約を後から取り消せる「取消権」がありますが、後見人がいない状態ではこの防御手段そのものがありません。

⑥ 相続手続きが困難になる

将来、本人(この場合は「認知症の親」など)が亡くなった際の相続手続きにおいて、遺産分割協議には相続人全員の合意が必要です。もし相続人の中に認知症で判断能力を失った方がいる場合、その方の代わりに後見人を立てなければ協議自体が成立しません。「自分の相続」だけでなく、「配偶者や親が関わる将来の相続」にも影響が及ぶという点は見落とされがちです。


意外な落とし穴|家族が勝手に財産を動かすと何が起きるか

「後見人をつけずに、家族だけで何とかする」と考える方も多いのですが、ここには見落とされがちなリスクがあります。

後見制度を使わずに家族が本人の口座から生活費を引き出したり、不動産の管理を代わりに行ったりした場合、その行為には法的な裏付けがありません。本人が亡くなった後の相続の場面で、他の相続人から「使い込みではないか」と疑われ、使途の説明を求められるケースが実際に起きています。たとえ本人のために使ったお金であっても、記録が残っていなければ、後になって「証明できない」という状況に陥ります。

つまり、「後見人をつけない」という選択は、費用やプライバシーの問題を回避できる一方で、財産を管理する家族自身が、将来にわたって法的にも心理的にも不安定な立場に置かれ続けるという側面も持っています。これは、後見人をつけない場合の「見えないコスト」と言えるかもしれません。


発症前にしかできない4つの代替手段

成年後見制度以外にも、判断能力が失われる前であれば選べる選択肢があります。いずれも「本人の意思で、元気なうちに」契約や手続きを整えておく必要があるという共通点があります。

手段 主な内容 家庭裁判所の関与 向いている人
任意後見契約 本人が信頼する人(家族や専門家)を、将来の後見人としてあらかじめ指定する契約。公正証書で作成する 発効時に任意後見監督人が選任される(監督人への報酬が発生) 「後見人は自分で選びたい」という方
家族信託 財産の管理・処分を家族に託す仕組み。信頼できる家族が「受託者」として不動産や預貯金を管理する 原則として関与しない 不動産の売却や事業承継など、柔軟な財産管理をしたい方
財産管理委任契約 判断能力があるうちから、日常的な財産管理や支払いの代行を家族などに委任する契約 関与しない 判断能力はあるが身体的に外出や手続きが難しい方
日常生活自立支援事業 都道府県・指定都市の社会福祉協議会が窓口となり、日常的な金銭管理や福祉サービス利用の援助を行う公的な事業 関与しない(契約の締結能力は必要) 資産規模が大きくなく、日常的な支援で足りる方

任意後見契約は「発症後の後見人を自分で選べる」という最大のメリットがある一方、実際に効力が発生するのは判断能力が低下した後であり、発効後は任意後見監督人への報酬という新たなコストが生じます。家族信託は、不動産の売却や資産の組み替えなど、柔軟な対応をあらかじめ決めておける点で近年注目されていますが、信託契約の設計を誤ると税務上・運用上のトラブルにつながることもあり、専門家による設計が欠かせません。

日常生活自立支援事業は、社会福祉協議会が窓口となる公的な仕組みで、預金の出し入れの援助や福祉サービスの利用手続きの支援などを、比較的少ない費用で受けられる点が特徴です。ただし、この事業を利用するには、本人がサービス内容を理解し契約を結べるだけの判断能力が必要とされており、認知症がある程度進行した後では利用できない場合があります。この点も、「早めに動く」ことの重要性を裏付けています。

どの手段にも一長一短があり、「これさえやっておけば安心」という単純な答えはありません。資産の内容、家族構成、本人の希望によって最適な組み合わせは変わってきますので、実際に選ぶ際は弁護士・司法書士に相談しながら検討することを強くおすすめします。


タイムリミットは「判断能力があるうちに」だけ

ここまで見てきた任意後見契約も、家族信託も、財産管理委任契約も、そして日常生活自立支援事業も、共通する条件があります。それは、本人に契約を結ぶための判断能力が残っていることです。

認知症が進行し、医師の診断で契約能力がないと判断された場合、これらの選択肢はすべて使えなくなります。残された道は、法定後見制度――つまり、家庭裁判所が後見人を選ぶ、本人の意思が反映されにくい仕組みだけになってしまいます。

さらに、判断能力が失われた状態では、遺言書を新たに作成することもできません。「まだ元気だから」「まだ先の話」と先延ばしにしているうちに、選べたはずの選択肢が一つずつ閉じていく。これが、この記事で最もお伝えしたい現実です。

判断は早すぎるということはありません。逆に、「気づいたときには遅かった」という声を、私たちは数多く見聞きしてきました。


デジタル資産は後見制度でも守りきれない

もう一つ、見落とされがちな問題があります。それは、ネット銀行の口座、ネット証券、暗号資産、各種サブスクリプションといった「デジタル資産」です。

これらは通帳や書類が存在しないため、後見人が選任されたとしても、その存在自体に気づけないケースが少なくありません。後見人は本人の財産を管理する義務を負いますが、把握できていない財産を管理することはできないのです。結果として、家族も後見人も気づかないまま、デジタル資産だけが宙に浮いてしまうという事態が起こり得ます。

こうした事態を防ぐには、後見制度の有無にかかわらず、「どの金融機関に、どのような資産があるか」という情報を、判断能力があるうちに家族や信頼できる人に伝えておくことが欠かせません。

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エンディングノートに残しておくべき「後見に関する意向」7項目

後見人をつけるかどうかを今すぐ決められなくても、自分の意向を書き残しておくことはできます。エンディングノートには、次のような項目を記録しておくことをおすすめします。

  • 将来、後見人になってほしい(あるいは、なってほしくない)人の名前
  • 任意後見契約を結ぶ予定・意向の有無
  • 家族信託を検討しているかどうか、その相手
  • かかりつけ医・持病・服薬状況
  • 延命治療や医療同意に関する希望
  • 財産の全体像(不動産・預貯金・デジタル資産を含む)と保管場所
  • 相談している弁護士・司法書士・社会福祉士の連絡先

これらの情報は、本人が元気なうちに書いておかなければ意味がありません。判断能力が失われてから「本人の意向」を確認する手段は、もう残されていないからです。

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よくある質問

Q1. 後見人には必ず家族以外の専門家がなるのですか?

必ずしもそうではありません。申立ての際に親族を候補者として希望することはできますが、最終的に誰を選任するかは家庭裁判所の判断に委ねられます。実際には、財産の内容や親族間の意見の相違などを理由に、専門職が選ばれるケースが8割以上を占めているのが現状です。

Q2. 一度つけた後見人は、途中でやめてもらえますか?

後見人の交代には家庭裁判所への申立てが必要で、本人や家族の意向だけで自由に解任・交代できるものではありません。「合わないから」という理由だけで交代が認められるとは限らない点は、事前によく理解しておく必要があります。

Q3. 後見人をつける費用が払えない場合はどうすればいいですか?

資力が乏しい場合、市町村の助成制度や法テラスの利用が可能な場合があります。申立てを検討する段階で、まずは地域の権利擁護支援の相談窓口や弁護士・司法書士に相談することをおすすめします。

Q4. 家族信託があれば、成年後見制度はまったく不要になりますか?

家族信託は財産管理には有効ですが、医療同意や身上保護(施設入所の手続きなど)はカバーできません。家族信託と任意後見契約を組み合わせるなど、目的に応じた設計が必要になる場合が多く、この点は専門家に相談しながら検討すべきポイントです。

Q5. 日常生活自立支援事業は、認知症と診断されたら使えなくなりますか?

診断名だけで一律に利用できなくなるわけではありませんが、契約内容を理解し、自分の意思で契約を結べるだけの判断能力があることが利用の前提です。判断能力の状態については、お住まいの地域の社会福祉協議会に早めに相談することをおすすめします。

Q6. 「まだ大丈夫」なうちに何から始めればいいですか?

まずは家族と現状の資産や意向について話し合い、エンディングノートに記録することから始めるのが現実的な一歩です。そのうえで、任意後見契約や家族信託の要否について、弁護士・司法書士に相談することをおすすめします。


まとめ

成年後見人を「つけたくない」という気持ちには、費用、専門家への抵抗感、プライバシー、そして「まだ大丈夫」という感覚など、それぞれに正当な理由があります。その気持ちを否定する必要はありません。

一方で、後見人をつけないまま認知症が進行すると、口座凍結や不動産の処分不能、施設契約の壁など、生活に直結する問題が現実に起こり得ます。そして、家族が善意で財産を動かしたとしても、それが後々の家族間の不信や法的なリスクにつながることもあります。

大切なのは、「つける・つけない」を今すぐ決めることではなく、判断能力が確かなうちに、任意後見契約や家族信託といった選択肢を検討し、家族と意向を共有しておくことです。この準備は、判断能力が失われた瞬間から、二度とやり直せなくなります。

まずはエンディングノートに、ご自身の意向を書き記すことから始めてみてください。そして、具体的な制度の選択については、弁護士・司法書士・社会福祉士など専門家への相談を強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。


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参考資料(公的機関)
– 最高裁判所「成年後見関係事件の概況―令和7年1月~12月―」
– 最高裁判所「報酬に関する実情調査の集計結果について―令和7年7月~12月―」
– 全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について」
– 厚生労働省「成年後見はやわかり」

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