認知症の親が詐欺・悪質商法の被害に!契約は取り消せる?民法96条・9条・消費者契約法4条を徹底解説

認知症・成年後見

公開日:2026年8月8日 / 最終確認日:2026年8月8日
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カテゴリ:認知症・成年後見

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。


実家の親を訪ねたら、見覚えのない高額な布団や健康食品の契約書が出てきた——。

「よくわからないまま、はんこを押しちゃったのよ」

親がそう答えたとき、多くの家族は同じ言葉を口にします。

「この契約、取り消せないの?」

結論から言うと、認知症の親が結んだ契約は、条件が揃えば取り消せる可能性があります。使える法的根拠は主に3つあり、それぞれ要件も難易度も異なります。

本記事でわかること:

  • 民法96条・民法9条・消費者契約法4条、3つの取消根拠の違い
  • 2022年の消費者契約法改正で追加された「不安をあおる勧誘」規定
  • クーリングオフと「取消し」の違い(混同している人が非常に多いポイント)
  • 取消しの期限(時効)と、実際の手続きの流れ
  • 取消しが難しくなるケースと、認知症の程度による使い分け
  • 発症前にできる予防策(任意後見・家族信託・見守りサービス)

契約取消しの3つの法的根拠を比較【一覧表】

認知症の親の契約を取り消す場合、主に次の3つの法律が根拠になります。

根拠 対象となる状況 取消しの難易度 期限
民法96条(詐欺) 業者にだまされて契約した 立証が難しい 気づいてから5年/契約から20年
民法9条(成年被後見人の行為) 家庭裁判所の審判で「成年被後見人」となっている 後見開始さえしていれば比較的容易 特に期限の定めなし(原則いつでも取消可)
消費者契約法4条(不実告知・不安をあおる勧誘等) 事業者の不当な勧誘方法があった 民法96条より立証しやすい 追認できる時から1年/契約から5年

3つとも「取り消せる」という結果は同じですが、成立要件と、実際に主張しやすいかどうかがまったく異なります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

なお、契約日から一定期間内であれば、これらの要件を問わずに撤回できる「クーリングオフ」という制度もあります。この違いは後述します。

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民法96条「詐欺」による取消し——立証のハードルが最大の壁

民法96条1項は、詐欺または強迫による意思表示は取り消すことができると定めています。

業者が事実と異なる説明をして親を信じ込ませ、その結果として契約したのであれば、この条文を根拠に取消しを主張できます。

成立に必要な要件

  • 業者に「だまそう」という意図(故意)があったこと
  • 業者が虚偽の事実を告げるなど、欺く行為をしたこと
  • その欺く行為によって親が誤解し、契約する意思を固めたこと(因果関係)

問題は、この3つすべてを取消しを主張する側(家族)が証明しなければならない点です。

業者側が「そんな説明はしていない」「本人が納得して契約した」と主張すれば、水掛け論になりがちです。特に契約時のやり取りが口頭のみで、録音や書面が残っていない場合、詐欺の立証は簡単ではありません。

そのため実務では、民法96条だけに頼るのではなく、後述する消費者契約法4条や、認知症の程度によっては民法9条もあわせて検討することになります。


民法9条「成年被後見人」による取消し——後見開始が前提

民法9条は、成年被後見人が行った法律行為は取り消すことができると定めています。

ここでのポイントは、この条文を使うには「成年被後見人」という法的な立場が必要だという点です。単に「認知症と診断されている」だけでは足りません。

家庭裁判所に後見開始の審判を申し立て、本人が「事理を弁識する能力を欠く常況にある」と認められて初めて、成年被後見人になります。この審判が確定していれば、後見開始前後を問わず、原則としてその人が結んだ契約は取り消せます。

唯一の例外:日用品の購入等

民法9条には「ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない」という但し書きがあります。

食料品や日用雑貨など、生活に必要な少額の買い物まで一律に取り消せるとすると、本人の自立した生活を過度に制限してしまうためです。何が「日用品」にあたるかは、本人の資産状況や取引の内容によって相対的に判断されます。

民法9条の限界

この方法の最大のネックは、後見開始の審判に通常3〜4ヶ月程度かかることです。悪質業者との契約から日が浅く、まだ後見開始の審判を得ていない段階では、この条文を直接の根拠にすることはできません。

法定後見制度そのものの申立て手続きや注意点については、[成年後見制度の解説記事](内部リンク)で詳しく整理しています。


消費者契約法4条による取消し——不実告知・不利益事実の不告知

消費者契約法4条は、事業者の不当な勧誘によって消費者が誤認・困惑して契約した場合に、取消しを認める条文です。代表的な類型は次のとおりです。

  • 不実告知:重要事項について事実と異なることを告げた
  • 断定的判断の提供:将来の不確実な事項について「必ず値上がりする」などと断定的に説明した
  • 不利益事実の不告知:消費者に有利な事実だけを伝え、不利益な事実をあえて説明しなかった
  • 不退去・退去妨害:帰ってほしいと言っても居座った/帰りたいと言っても帰らせなかった

民法96条の詐欺と違う点は、業者に「だまそう」という故意までは必要ないことです。不当な勧誘方法があったという客観的な事実さえ示せれば、取消しを主張しやすくなります。この点で、消費者契約法4条は民法96条より主張のハードルが低いケースが多いといえます。


【2022年改正】不安をあおる勧誘・つけこみ型勧誘とは

高齢者の消費者被害が社会問題化する中、消費者契約法は2022年に改正され、2023年1月・6月にかけて段階的に施行されました。この改正で追加された類型が、認知症の親の被害を考えるうえで特に重要です。

不安をあおる告知

消費者が「加齢や病気により判断力が低下していること」につけこみ、合理的な根拠を示さないまま「このままでは大変なことになる」といった不安を強調して契約させる行為です。「今のうちに対策しないと将来困りますよ」といった営業トークで高額商品を売りつける手口が典型例です。

つけこみ型勧誘(合理的な判断ができない事情の不当な利用)

社会生活上の経験不足や、加齢による判断力の低下といった事情につけこみ、あおるような言動で消費者を勧誘する行為として、取消しの対象が拡大されました。

霊感等による知見を用いた告知

「霊視の結果、このままでは家族に不幸が起きる」といった形で不安をあおり契約させる勧誘も、明文で取消対象に加えられています。

この改正は、まさに「認知症の親が判断力の低下につけこまれて契約させられる」というケースを念頭に置いたものです。民法96条の詐欺よりも要件が緩やかで、実務上、認知症の高齢者被害では消費者契約法4条が第一の選択肢になることが多いと考えられます。

改正の詳しい経緯は、消費者庁の公表資料でも確認できます。
消費者庁「消費者契約法」(外部リンク)


クーリングオフとの違いに注意

「クーリングオフを使えば取り消せる」と考えている方も多いのですが、クーリングオフと本記事で解説している「取消し」は別の制度です。混同すると対応を誤るため、整理しておきます。

比較項目 クーリングオフ 民法96条・9条/消費者契約法4条による取消し
対象となる販売形態 訪問販売・電話勧誘販売など法律で定められた一部の取引に限定 契約の形態を問わず幅広く対象
理由の必要性 理由不要(無条件) 詐欺・不当勧誘・成年被後見人であることなど、要件の立証が必要
行使できる期間 契約書面受領日から8日間(連鎖販売取引等は20日間) 民法:気づいてから5年(最長20年)/消費者契約法:追認できる時から1年(最長5年)
手続きの難しさ 書面を送るだけで比較的簡単 要件を満たすことの説明・立証が必要

クーリングオフは期間が短い分、理由を問わず使える強力な制度です。契約からまだ日が浅い場合は、まずクーリングオフの対象取引・期間に該当しないかを確認することをおすすめします。期間を過ぎてしまった場合に、本記事で解説している取消しの根拠を検討する、という順序が実務的です。


取消しにはいつまでに動けばいい?期限(時効)の整理

取消しには期限があります。根拠となる法律ごとに異なるため、正確に把握しておく必要があります。

民法上の取消し(民法96条・民法9条を含む)

民法126条により、取消権は「追認をすることができる時から5年間」行使しないと時効で消滅します。また、行為(契約)の時から20年を経過したときも消滅します。

詐欺の場合の「追認をすることができる時」とは、一般的に本人または家族が詐欺の事実に気づいた時点を指すと解されています。

消費者契約法による取消し

消費者契約法7条により、取消権は「追認をすることができる時から1年間」行使しないと時効で消滅します。2022年改正でこの期間は3年から伸長されたわけではなく、霊感等による知見を用いた告知など一部の類型についてのみ3年に延長されています。契約締結時から5年を経過したときも同様に消滅します。

いずれにしても共通するのは、気づいたら早く動く必要があるということです。時間が経つほど、記憶も証拠も薄れ、時効の壁にもぶつかりやすくなります。


実際の取消し手続きの流れ

取消しを主張する場合、次の3ステップで進めるのが一般的です。

ステップ1:内容証明郵便で取消しの意思表示を送る

まずは業者に対し、「本契約を民法○条(または消費者契約法4条)に基づき取り消す」という意思表示を、内容証明郵便で送付します。口頭や普通郵便では「言った・言わない」の水掛け論になりやすいため、意思表示をした事実と日付を客観的に残すことが重要です。

ステップ2:業者が応じない場合は消費生活センターに相談

業者が取消しに応じない、返金に応じないといった場合は、最寄りの消費生活センターに相談します。消費生活センターには、本人が認知症などで直接相談することが難しい場合、家族やケアマネジャー、地域包括支援センターの職員などが代わりに相談することも可能です。相談窓口は、消費者ホットライン「188(いやや!)」から案内を受けられます。

ステップ3:解決しない場合は弁護士に相談

消費生活センターのあっせんでも解決しない場合や、金額が大きい場合、後見開始の審判が必要な場合は、早い段階で弁護士に相談することを強くおすすめします。時効の期限が迫っている場合や、証拠の収集・保全が必要な場合は特に、専門家の判断を仰ぐタイミングが遅れるほど不利になります。

国民生活センターの相談窓口情報や、高齢者の消費者被害の傾向については、以下の公式情報もあわせてご確認ください。
国民生活センター「高齢者の消費者被害」(外部リンク)

自分でどこまで対応すべきか迷ったら、まず消費生活センターに電話をかけ、その後の対応方針として弁護士への相談を検討する、という流れが現実的です。悪質な業者とのやり取りに家族だけで対応しようとすると、精神的な負担も大きくなります。


こんな場合は取消しが難しい

すべてのケースで取消しが認められるわけではありません。次のような状況では、取消しのハードルが上がります。

認知症の程度が軽い場合

軽度の認知症では、契約内容を一定程度理解し、自分の意思で判断していたと評価される可能性があります。この場合、意思能力そのものが欠けていたとまでは言えず、詐欺や不当勧誘の要件を個別に立証する必要が出てきます。

契約から時間が経過している場合

前述のとおり、民法・消費者契約法いずれも時効期間が定められています。契約から数年、数十年が経過していると、そもそも取消権自体が消滅している可能性があります。

契約書類・やり取りの記録が残っていない場合

契約書、パンフレット、業者とのメモやメール、通帳の出金記録など、証拠が何も残っていないと、詐欺や不当勧誘の立証が極めて困難になります。「言った・言わない」の争いになりやすく、業者側が事実を否定すれば、それ以上の主張が難しくなるケースもあります。

このような場合でも、あきらめる前に一度弁護士に相談することをおすすめします。断片的な証拠からでも、専門家であれば主張の組み立てを検討できる場合があります。

終活詐欺の具体的な手口や被害パターンについては、[終活詐欺の解説記事](内部リンク)でも取り上げています。あわせてご確認ください。


認知症の程度によって使える法律が変わる

ここまで見てきたように、どの根拠が使えるかは、契約時点での認知症の進行度によって変わります

  • 軽度(判断能力は一定程度残っている):民法96条(詐欺)または消費者契約法4条(不実告知・不安をあおる勧誘)が中心。業者の勧誘方法の悪質性を具体的に立証していく
  • 中等度〜重度(判断能力がほぼ失われている、または既に成年被後見人):民法9条(成年被後見人の行為)が中心。後見開始の審判を受けていれば、勧誘方法の悪質性を問わず取消しが可能

この視点は見落とされがちですが、実務上は非常に重要です。「認知症だから何でも取り消せる」わけではなく、「認知症の程度と、法定後見の有無によって、使える武器が変わる」というのが正確な理解です。

親の判断能力の状態を早期に把握しておくことが、いざというときの対応スピードを左右します。認知症の兆候や早期発見のポイントについては、[認知症の早期発見に関する記事](内部リンク)もあわせてご参照ください。


被害を防ぐには?任意後見・家族信託・見守りサービスの活用

契約後の取消しは、要件の立証や時効との戦いになり、家族にとって大きな負担です。可能であれば、被害が起きる前の予防策を講じておくことが理想的です。

任意後見制度

判断能力があるうちに、将来後見人になってほしい人を自分で指定し、契約しておく制度です。発症後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで、後見が開始します。悪質な契約を未然に防ぐ財産管理の枠組みとして活用できます。

家族信託

信頼できる家族に財産の管理・運用を任せる契約です。認知症発症後も、受託者である家族が柔軟に財産を管理できるため、高額な契約への支出そのものを防ぎやすくなります。

見守りサービス

自治体やケアサービス事業者が提供する見守りサービスを利用することで、日々の様子の変化や、不審な業者の出入りに家族や周囲が早く気づける体制を作れます。国民生活センターも、周囲が高齢者の変化に日頃から気づくことの重要性を指摘しています。

これらの対策は、いずれも発症前にしか準備できません。「まだ大丈夫」と思っているうちに、早めに家族で話し合っておくことが被害の予防につながります。

契約情報の記録という視点

もう一つ見落とされがちなのが、「どんな契約を結んでいるか」を家族が把握できる状態にしておくことです。被害が発生しても、契約書がどこにあるか家族が分からなければ、取消しの主張すら始められません。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 親が認知症と診断されていない場合でも、取消しは主張できますか?

主張できる可能性はあります。民法96条(詐欺)や消費者契約法4条(不実告知・不安をあおる勧誘)は、成年被後見人であることを要件としていません。ただし、判断能力の低下を裏付ける事情(診断の有無、日常生活の様子など)があると、主張の説得力は高まります。

Q2. 家族が代わりに契約を取り消すことはできますか?

本人に判断能力が残っている場合は、本人の同意のもとで家族が交渉窓口になることは可能です。本人が成年被後見人であれば、成年後見人が本人に代わって取消しの手続きを行えます。いずれのケースでも、早めに弁護士に相談し、適切な進め方を確認することをおすすめします。

Q3. 業者が「返金には応じられない」と言ってきたら、どうすればいいですか?

業者の主張だけで諦める必要はありません。内容証明郵便で改めて取消しの意思表示を明確にし、消費生活センターに相談してください。それでも解決しない場合は、弁護士に依頼して交渉や法的手続きを進めることになります。

Q4. 現金で支払ってしまい、領収書も受け取っていません。取消しは無理ですか?

領収書がなくても、通帳の出金記録、業者とのやり取りのメモ、家族の証言などが補強証拠になる場合があります。証拠が乏しいケースほど、専門家の判断が重要になりますので、早めに弁護士や消費生活センターに相談してください。

Q5. クーリングオフの期間はもう過ぎています。他に方法はありますか?

クーリングオフの期間経過後でも、民法96条・9条や消費者契約法4条の取消要件を満たせば契約を取り消せる可能性があります。クーリングオフとこれらの取消しは別の制度なので、期間経過をもって諦める必要はありません。

Q6. 取消しが認められると、支払ったお金は全額戻ってきますか?

取消しが認められれば、契約は最初からなかったことになり、原則として支払った代金の返還を請求できます(民法121条の2)。ただし、業者が任意に応じない場合は、返還請求のための追加の法的手続きが必要になることがあります。


まとめ:早期の証拠確保と、専門家への相談が最優先

認知症の親が詐欺・悪質商法の被害にあった場合、契約を取り消せる可能性がある法的根拠は主に3つです。

  • 民法96条:詐欺による意思表示は取消し可能。ただし立証のハードルが高い
  • 民法9条:成年被後見人の契約は原則取消し可能。ただし後見開始の審判が前提
  • 消費者契約法4条:不実告知・不安をあおる勧誘等による契約は取消し可能。2022年改正でつけこみ型勧誘への対応が強化された

どの根拠が使えるかは、認知症の進行度と、契約時の状況によって変わります。そして、いずれの根拠も時効による期限があるため、被害に気づいたらできるだけ早く動くことが重要です。

今日からできる対応として、次の3つを意識してください。

  1. 契約書・パンフレット・領収書など、手元にある証拠をすぐに整理する
  2. 消費生活センター(消費者ホットライン188)に相談する
  3. 早い段階で弁護士に相談し、時効と証拠の両面で不利にならないよう動く

そして、被害が起きる前の備えとして、任意後見・家族信託の準備や、契約情報を家族で共有できる仕組みづくりも、あわせて検討しておくことをおすすめします。


※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。認知症の親の契約トラブルに直面している場合は、時効や証拠の問題が絡むため、早期に弁護士へ相談することを強くおすすめします。


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