公開日: 2026-06-15 / 最終確認日: 2026-06-15
監修: 終活・相続専門チーム(DEN編集部)
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。
個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。
記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。
「遺言書は大事だとわかっている。でも、まだ書いていない」
そう感じている方は、決して少数派ではありません。
「そのうちやろう」と思いながら、何年も経ってしまった。
この感覚を持つ方は、実は日本全体の圧倒的多数派なのです。
では、なぜ重要とわかっていても動けないのでしょうか。
答えは「意志が弱いから」でも「怠けているから」でもありません。
脳の仕組みが、先延ばしを自然に生み出しているからです。
本記事でわかること:
– 日本人の9割以上が遺言書を書かない理由と脳の構造
– 先延ばしを生む心理学的メカニズム(現在バイアス・認知負荷・完璧主義トラップ)
– 認知症・突然の入院でタイムリミットが来る前に知っておくべき現実
– 遺言書を書くべき5つの人生の節目
– 「完成させるもの」から「育てていくもの」への発想転換
– 今日5分でできる最小スタートの具体例
日本人の9割が遺言書を書かない──3.5%という現実と脳の仕組み
日本財団が2022年に実施した調査によれば、60歳から79歳の男女のうち、遺言書を作成したことがある人はわずか3.5%です。
法務省の調査では自筆証書と公正証書を合算しても6.8%。
つまり、9割以上の日本人は遺言書を持っていないという現実があります。
さらに驚くのは、書かない理由のトップ2です。
Authense法律事務所が2025年に公表した「遺言書年報2025」(対象: 709名)によれば、
- 「自分の遺産が少ないから」 ─ 22.5%
- 「まだ健康だから」 ─ 18.9%
この2つの回答に共通するのは、「今すぐやる必要はない」という感覚です。
これは意志の問題でも怠慢でもなく、人間の脳がデフォルトで持つ仕組みから来ています。
次のセクションでは、その仕組みを2つの心理学用語で解き明かします。
先延ばしの正体①──「現在バイアス」で遺言書は常に後回しになる
現在バイアスとは、将来の利益よりも現在の利益を大きく評価してしまう、脳の認知傾向です。
行動経済学の分野で広く研究されており、「今すぐ1万円」と「1年後に1万5千円」を比べたとき、合理的な判断では後者を選ぶべきでも、多くの人が前者を選んでしまう現象がその典型例です。
遺言書に置き換えると、このように機能します。
- 今: 遺言書を書く不快さ・手間が「今すぐのコスト」として感じられる
- 将来: 家族が相続で困るリスクは「遠い未来のこと」として軽く評価される
結果として、脳は「今日はまだいい」という結論を自動的に出します。
「子供が就職したら書こう」「定年したら落ち着いてやろう」「孫が生まれたら考えよう」。
節目が来るたびに新しい「そのうち」が生まれ、先延ばしのサイクルは終わりません。
もう一つ関係するのが、プランニング・ファラシー(計画錯誤)です。
人は未来の自分を、今より時間があり、余裕のある状態だと過信します。
しかし将来になっても「今」の感覚は変わらず、「将来の今」も同じように忙しく感じます。
自分で断ち切らない限り、先延ばしのサイクルは自然には終わらないのです。
先延ばしの正体②──「認知負荷」が重くて手が動かない「完璧主義トラップ」
現在バイアスとともに先延ばしを加速させるのが、認知負荷の問題です。
遺言書を「一度で完璧に仕上げるもの」と捉えると、頭の中でやるべきことが一気に膨れ上がります。
「まず全財産を把握して、相続人を確認して、書式のルールを調べて、証人を用意して、公証役場に行って……」
このような情報量の多さが、脳に強いストレスをかけます。
これを認知過負荷と言い、処理が追いつかないと感じると、脳は「今はまだ準備ができていない」とブレーキをかけます。
そして起きるのが完璧主義トラップです。
「もう少し準備が整ってから」「もっと知識をつけてから」──これはセルフハンディキャッピングの一種で、試験前に突然部屋を片付けたくなるのと同じ心理構造です。
「正当な先送りの理由」を無意識に作り出し、本当にやるべきことを回避します。
「完璧に書こう」と思うから挫折するのです。
完璧な遺言書より、不完全でも存在する遺言書の方が、家族には何百倍も価値があります。
ギリギリになったら書けるのか?──認知症発症後の現実
「いざとなれば書ける」という考えは、残念ながら根拠がありません。
認知症を発症すると、遺言書は法的に「書けなくなる」可能性がある
遺言書を作成するには、意思能力(正常な判断力)が法律上必要とされています。
認知症が進行し、意思能力が失われた状態で書いた遺言書は、後から「無効」と争われるリスクが生じます。
厚生労働省の推計によれば、日本の認知症患者数は2025年時点で約700万人。
65歳以上の約5人に1人が認知症を抱えている計算です。
(参考:厚生労働省「認知症施策推進総合戦略」)
「まだしっかりしている」と本人も家族も思っていても、「書いた時点での意思能力」が後から争点になります。
遺言書を書いた後で「あの時はもう認知症だったはず」と訴訟になるケースも実際に起きています。
認知症発症後の法的手続きの複雑さについては法定後見制度の問題点で詳しく解説しています。
突然の入院・事故──「後でいいや」を奪うシナリオ
脳梗塞や心筋梗塞は、前触れなく来ます。
自宅で倒れて救急搬送された後では、公証人を呼ぶ時間も体力もありません。
「先月まで毎朝ウォーキングしていた父が、突然の脳梗塞で入院しました。遺言書の話は『まだ早い』と笑っていたのに。スマホのパスワードも、ネット銀行の口座も、何一つわかりません」──DEN編集部に寄せられた実際のご家族の声です。
長期入院が突然決まった場合に今すぐやるべきことはこちらの記事で詳しく解説しています。
元気なうちに書いた遺言書こそが、最も法的に安定し、家族を守る力を持ちます。
「まだ健康だから」という理由が、実は最も危険な先延ばしの言い訳なのです。
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遺言書を書くべき5つのタイミング──人生の節目チェックリスト
「いつ書けばいいか」に正解はありませんが、以下の5つの節目は特に強い見直しサインです。
当てはまるものがあれば、それが「今日始めるタイミング」です。
① 不動産を取得したとき
土地・マンション・実家の相続は、現金と違って物理的に分割できません。
誰が引き継ぐかを明確にしておかないと、家族間の話し合いが長期化します。
② 家族構成が変わったとき
結婚・離婚・子の誕生・配偶者との死別。
相続人の構成が変わるたびに、遺言書の内容も更新が必要です。
③ 大病を患ったとき・親が認知症になったとき
自分の死や判断能力の低下を身近に感じた時が、最もリアルに動けるタイミングです。
親の相続手続きを経験した後に「自分も書かなくては」と動き出す方が非常に多いです。
④ 50代に入ったとき
認知症発症リスクが高まる前の、最もバランスの取れた時期です。
判断能力が明確で、財産状況もある程度確定している50代は「書き時」といえます。
⑤ 資産の構成が大きく変わったとき
相続・売却・株の増減・仮想通貨の保有開始など。
財産目録が変われば、誰に何を渡すかの内容も見直しが必要です。
「完成させるもの→育てていくもの」へ──年1回・誕生日更新のすすめ
ここで、遺言書とエンディングノートに対する根本的な発想を変えてみてください。
「遺言書・エンディングノートは、一気に完成させるものではない。少しずつ育てていくものである」
この一言で、心のブレーキが外れる方は少なくありません。
「今日わかる範囲で書いて、あとから更新すればいい」──それだけで、行動のハードルは劇的に下がります。
遺言書は何度でも書き直せます。
最新の遺言書が有効となり、古い遺言書は自動的に効力を失います。
(参考:日本公証人連合会「公正証書遺言」)
「一度書いたら変えられない」という誤解が、書き始めを妨げる大きな壁の一つです。
バースデー・ルール──誕生日に毎年1回だけ見直す
更新頻度として最も現実的なのが、誕生日に年1回のルールです。
記念日に紐づけると「忘れた」「後でいいや」が起きにくくなります。
30分でいい。見直して、気づいた差分だけを追記する。
それだけで情報は最新の状態を保てます。
特に以下のイベントがあった年は、必ず追加で見直してください。
| ライフイベント | 見直すべき内容 |
|---|---|
| 不動産の取得・売却 | 財産目録、相続先の指定 |
| 子・孫の誕生 | 受取人の追加、相続割合 |
| 家族の死亡・離婚 | 相続人の変更 |
| 大きな資産の増減 | 分割方法の見直し |
| 相続法・税法の改正 | 内容の適法性確認 |
2024年には相続登記の義務化(相続から3年以内の登記が必須)が施行されました。
(参考:法務省「相続登記の義務化」)
法律は変わります。定期的な見直しが、家族を守る最大のリスク管理です。
今日から5分でできる「最小スタート」の具体例
完璧な遺言書より、不完全でも存在することの方がはるかに価値があります。
まず5分だけ時間を作って、以下のうち1つだけ試してください。
「1つやり遂げた」という感覚が、次の行動を自然に引き出します。
① A4用紙1枚に1行書く
「私が最も大切にしている財産は○○です」と手書きする。
署名と日付を添えるだけ。それで今日は終わりでいい。
② 銀行口座の一覧をメモする(5分)
通帳やカードを引き出しから出して、銀行名と口座番号をメモするだけ。
完璧に整理しなくていい。「存在を書き留める」だけで十分です。
③ スマホのロック解除PINを家族に伝える(2分)
「もし何かあったとき、スマホを開けるPINはこれ」と一言伝えるだけ。
SNS・ネット銀行・仮想通貨ウォレットへのアクセスは、スマホが開けなければすべて遮断されます。
デジタル資産の相続で最初に詰まるのが、このロック解除です。
④ 相談したい専門家の名前を1人メモする(5分)
「弁護士か税理士か司法書士に相談したい」と思っているなら、今日その名前を1行メモする。
予約まで進まなくていい。「誰に頼るか」が決まるだけで、心理的負担は下がります。
⑤ エンディングノートを1冊買う(翌日)
書店やオンラインで「エンディングノート」を1冊購入して本棚に置くだけ。
「いつでも書ける状態にする」こと自体が、行動の最初の一歩です。
なぜ「着手」するだけで変わるのか
着手することで、脳内にドーパミンが分泌されます。
「やれた」という感覚が次の行動へのモチベーションを生み出す──これを心理学では着手効果と言います。
「今日5分だけ」は気休めではなく、脳の仕組みに沿った科学的な先延ばし解消法です。
デジタル資産と遺言書──SNS・ネット銀行・仮想通貨はどう記録するか
現代の終活には、紙の財産だけでは不十分です。
SNSアカウント・ネット銀行・仮想通貨は、パスワードがわからなければ家族は一切アクセスできません。
銀行は本人確認ができなければ口座を凍結したままにします。
仮想通貨は秘密鍵を失えば永久に引き出せなくなります。
こうしたデジタル資産は、通常の遺言書には記載しにくい情報です。
「どこに何があるか」を示す目録として、エンディングノートまたはデジタル管理ツールへの記録が有効です。
デジタル資産の相続で50代が直面する現実についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
また、エンディングノートに記録したデジタル情報をどう安全に保管・共有するかは、エンディングノートの書き方も参考にしてください。
DENは、相続・遺言・終活に関する大切な情報を
暗号化して安全に保管するデジタル終活サービスです。
現在、サービス開始に向けてモニターを募集しています。
まとめ──「今日5分」が、家族を守る最初の一歩
遺言書を先延ばしにしてしまうのは、意志の弱さではありません。
- 現在バイアス:未来のリスクより今日の快適さを優先する脳の仕組み
- 認知負荷:「完璧に書こう」とするほど手が動かなくなる完璧主義トラップ
- 楽観バイアス:「まだ健康だから大丈夫」という根拠のない安心感
これらはすべて、脳が自然に生み出す反応です。
タイムリミットは「予告なし」でやってきます。
認知症・突然の入院──それらが来てからでは間に合わないケースも少なくありません。
今日5分だけ動いてみてください。
「完成させるもの」ではなく「育てていくもの」として捉え直せば、最初の一歩は限りなく小さくなります。
その小さな一歩が、家族への最大の贈り物になります。
エンディングノートのデジタル化にご興味がある方は、
DENのサービス紹介ページをご覧ください。
よくあるご質問
Q1. 遺言書は何歳から書けばいいですか?
15歳から法律上は作成できますが、相続の問題が具体的になる50〜60代での作成が現実的です。重要なのは年齢よりも「判断能力がある元気なうちに書く」こと。認知症になってからでは間に合わない場合があるため、早ければ早いほど安心です。
Q2. 財産が少なくても遺言書は必要ですか?
必要です。遺産額の多少にかかわらず、不動産が1つあるだけで相続手続きは複雑になります。家庭裁判所への相続関連申し立ての多くは遺産総額1,000万円以下のケースです。「少ないから関係ない」は、残された家族が最も困る思い込みの一つです。
Q3. エンディングノートと遺言書の違いは何ですか?
遺言書は法的効力を持ち、財産の分配や相続人の指定が可能です。エンディングノートは法的効力はありませんが、医療・介護の希望・デジタル資産情報・人間関係のメモなど、遺言書では書ききれない「想い」を残せます。両方を使い分けるのが理想的です。
Q4. 遺言書を書き直す頻度はどれくらいが適切ですか?
最低でも年1回の見直しをおすすめします。誕生日などの記念日に紐づける「バースデー・ルール」が最も継続しやすい方法です。不動産の取得・家族構成の変化・法改正があった年は、追加で見直してください。
Q5. 認知症になったら本当に遺言書は書けなくなりますか?
認知症の程度によります。軽度であれば作成できる場合もありますが、「作成時に意思能力があったか」が後から争われるリスクが高まります。元気なうちに書いた遺言書の方が、法的安定性が格段に高くなります。
Q6. 遺言書はどこに保管すればいいですか?
自筆証書遺言は、2020年から法務局(遺言書保管制度)に預けることができます。法務局に保管すれば、家庭裁判所での検認が不要になります。公正証書遺言は公証役場が原本を保管するため、紛失の心配がありません。(参考:法務省「遺言書保管制度」)
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。
個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。
記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。


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