公開日:2026年6月7日 / 最終確認日:2026年6月7日
フォーカスKW:法定後見制度 問題点
カテゴリ:認知症・成年後見
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。
父が認知症になった後、銀行の窓口でこんな会話が起きました。
「ご本人確認ができないと引き出せません」
「口座は凍結させていただきます」
「成年後見制度をご利用ください」
息子はそこで気づきます。
「法定後見だと、家族じゃない弁護士や司法書士が後見人になるケースが多いですよね? 月2〜6万円の報酬が亡くなるまで発生する制度ですよね? 父の施設入所費が父の口座から引き出せないから、私が立て替えるしかない状況ですよね?」
銀行の担当者は、沈黙するしかありませんでした。
本記事でわかること:
- 法定後見制度が抱える5つの問題点の実態
- 発症後に家族が直面する「詰み」の3パターン
- 発症前にやるべき3つの対策(任意後見・家族信託・代理人カード)
- 2026年の民法改正案で何が変わるか(現時点での審議状況)
- デジタル資産と法定後見が交差する盲点
- 法定後見制度とは?認知症発症後に「強制スタート」する制度の仕組み
- 発症後の「詰み」3パターン——実際に家族が直面する現実
- 問題点①「家族が後見人になれない」——専門家が選ばれる割合は8割
- 問題点②「月2〜6万円の報酬が死ぬまで発生する」——総額シミュレーション
- 問題点③「資産を守りすぎる」——生活費・施設費まで制限される実態
- 問題点④「一度始めると原則やめられない」——2026年民法改正案と審議の現状
- 問題点⑤「デジタル資産が宙に浮く」——ネット銀行・SNS・仮想通貨はどうなる?
- 発症前にできる3つの対策——法定後見を「使わずに済む」準備
- 3制度の比較表——任意後見・家族信託・法定後見のどれを選ぶか
- よくある質問(FAQ)
- まとめ:「発症前しか手が打てない」——今日できる1アクション
法定後見制度とは?認知症発症後に「強制スタート」する制度の仕組み
法定後見制度とは、認知症などで判断能力が低下した人を守るために、家庭裁判所が後見人を選任する制度です。
対象者の能力に応じて3つに分かれます。
| 類型 | 対象 | 後見人の権限 |
|---|---|---|
| 後見 | 判断能力がほぼない | ほぼすべての法律行為を代理 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分 | 特定の重要行為を同意・取消 |
| 補助 | 判断能力が不十分 | 当事者が申し立てた特定行為を支援 |
重要なのは、「申し立ては家族でも、選ぶのは家庭裁判所」という点です。
後見人の候補者を申立書に記載することはできますが、最終的な選任権限は家庭裁判所にあります。家族の希望通りの人が選ばれるとは限りません。
制度を利用するには、家庭裁判所への申立が必要です。申立から審判確定まで、通常3〜4ヶ月かかります。認知症が発覚した後に「急いで申し立てる」方が多いのですが、その間は口座凍結が続き、介護費用を家族が立て替え続けることになります。
では、発症直後に家族は具体的にどんな現実にぶつかるのでしょうか。
発症後の「詰み」3パターン——実際に家族が直面する現実
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認知症の診断を受けると、家族はほぼ同時に3つの壁にぶつかります。
❶ 銀行口座が凍結され、医療費・介護費が家族の自腹になる
金融機関は本人の判断能力低下を把握した時点で、口座取引を停止します。本人名義の口座から施設入所費や薬代を引き出すことができなくなります。
家族が自費で立て替えながら成年後見の申立手続きを進めるというのが、多くの家庭で起きていることです。申立から開始まで3〜4ヶ月かかるため、その間の立替は数十万円に上るケースもあります。
❷ 実家・不動産の売却が止まる
「施設費用のために実家を売りたい」という判断ができるのは、本人だけです。判断能力を失った後は、たとえ家族であっても不動産を売ることができません。
成年後見人が選任されれば売却の申請はできますが、家庭裁判所の許可も必要なため、手続きは複雑で時間もかかります。緊急の資金が必要なときほど、動きが取れません。
❸ 保険の解約・保険金請求も止まる
生命保険の解約や医療保険の保険金請求にも「本人の意思確認」が必要です。入院中の親の保険金を受け取れない、解約して介護費に充てることもできないという事態が発生します。
事後の対策はほぼありません。発症前の準備が、すべての鍵を握っています。
では、実際に後見制度を利用したときの問題点を、1つずつ見ていきましょう。
問題点①「家族が後見人になれない」——専門家が選ばれる割合は8割
「家族が後見人になればいい」と考える方は多いでしょう。しかし現実は大きく異なります。
2022年の司法統計によると、家庭裁判所が選任した後見人のうち81.9%が弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門家でした。親族が選ばれたのは約18.1%にすぎません。
なぜ専門家が選ばれやすいのでしょうか。
理由は「不正・横領の防止」です。過去に親族後見人による財産横領が多発したことを受け、家庭裁判所は第三者の専門家を後見人に選任する方針を強めています。特に管理財産が多い場合、ほぼ確実に専門家が選ばれます。
家族が後見人に「なれない」のではなく、「なりにくい構造」になっているのです。
知り合いでもない弁護士が、亡くなるまで毎月父の財産を管理する——この現実を、多くの家族は制度を利用してから初めて知ります。
問題点②「月2〜6万円の報酬が死ぬまで発生する」——総額シミュレーション
後見人には毎月報酬が発生します。報酬額は管理財産の額に応じて家庭裁判所が決定しますが、目安は以下の通りです。
| 管理財産額 | 月額報酬の目安 |
|---|---|
| 1,000万円未満 | 月2万円 |
| 1,000万〜5,000万円 | 月3〜4万円 |
| 5,000万円超 | 月5〜6万円 |
資産が多い方ほど、報酬額も高くなります。
平均的な認知症の経過期間は10年前後です。月3万円の報酬が10年続けば、総額360万円。月6万円なら720万円が後見人報酬として支払われます。
この費用はすべて「本人の財産」から支払われます。子どもへの相続財産が毎月少しずつ目減りしていくことになります。
「終活は本人のためにある」とはいえ、これだけの出費が事前に見えていない家庭は少なくありません。
問題点③「資産を守りすぎる」——生活費・施設費まで制限される実態
法定後見人の最大の使命は「本人の財産を守ること」です。この「守る」という姿勢が、思わぬ制限を生みます。
具体的な制限の事例を見てみましょう。
- 施設のリフォーム費用 → 必要性が認められないと支出不可
- 孫へのお祝い金・お年玉 → 本人の意思確認ができず、不支出が原則
- 生前贈与・節税対策 → 後見人の職務外として基本的にNG
- 投資・資産運用 → リスクのある行為として認められない
「父が元気なうちは毎年孫にお小遣いをあげていた」という家族の意向があっても、後見人の判断で止められることがあります。
後見人は「家族の希望を叶える人」ではありません。「本人の財産を守る人」として選任されています。この役割の違いを理解しておくことが重要です。
財産を守ることと、生活の質を維持することは、必ずしも一致しません。それが「守りすぎる」と言われる背景です。
問題点④「一度始めると原則やめられない」——2026年民法改正案と審議の現状
現行の法定後見制度は、一度開始すると本人が亡くなるまで終了できないのが原則です。
「もう少し状態が落ち着いたら後見人は不要では」と感じても、制度を途中でやめることは認められていません。後見人への報酬支払いも、死亡するまで続きます。
政治家は動いている——2026年4月の民法改正案
この問題を受け、政府は2026年4月3日の閣議で民法改正案を決定し、同日、国会に提出しました(読売新聞 2026年4月3日報道)。主な改正の方向性は次の通りです。
- 現在の後見・保佐・補助の3類型を「補助人」に一本化
- 補助審判の取り消しを可能に(必要がなくなれば終了できる仕組み)
- 支援者(後見人)の交代を柔軟に認める
- デジタル遺言(保管証書遺言)の創設(パソコン・スマートフォンで作成した遺言を法務局が保管)
このように、制度の硬直性を解消しようとする動きは確かにあります。
ただし、現時点ではまだ「成立していない法案」です
2026年6月時点では、この改正案は国会で審議中であり、成立していません。
施行時期についても、成立後の話であり、早くても2028年度中の運用開始が「見込み」とされているだけです。
「改正で問題が解決する」と期待して準備を後回しにするのは危険です。認知症はいつ発症するかわかりません。法改正の成立・施行を待つ前に、発症前の対策を整えることを優先してください。
問題点⑤「デジタル資産が宙に浮く」——ネット銀行・SNS・仮想通貨はどうなる?
法定後見制度は「財産管理」を目的としていますが、デジタル資産への対応は大きな盲点になっています。
ネット銀行の場合
ネット銀行の口座は、パスワードがわからなければアクセスできません。認知症発症後、パスワードが不明なまま口座が凍結されると、後見人であってもログインの権限証明が難しく、資金の把握や管理に支障をきたすことがあります。
SNSアカウント・デジタルデータの場合
SNSのアカウント管理、メールのパスワード、クラウドに保存した重要データ——これらは法定後見人の職務範囲に含まれません。「誰が管理するのか」が誰にも決まらないまま、宙に浮いた状態が続きます。
仮想通貨・暗号資産の場合
ビットコインなどの暗号資産は、秘密鍵がわからなければ移動も売却もできません。後見人が選任されても、秘密鍵の場所が不明では対処不能です。
デジタル資産は「情報を事前に整理しておくこと」が唯一の対策です。認知症を発症した後では、本人からの情報提供は期待できません。発症前に、パスワード・口座情報・暗号資産の保管場所を安全な形で記録・共有しておく必要があります。
発症前にできる3つの対策——法定後見を「使わずに済む」準備
対策は「発症前」にしか打てません。親が元気なうちに、以下の3つを準備してください。
① 任意後見制度の契約
任意後見制度とは、本人が元気なうちに「将来、判断能力が低下したときに後見人になってほしい人」を自分で指定し、公証役場で契約を結ぶ制度です。
法定後見との最大の違いは、後見人を自分で選べる点です。信頼できる家族・子ども・友人を後見人に指定できます。
契約後すぐに効力は発生しません。実際に判断能力が低下し、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任して初めて、後見が開始します。発症前の準備がそのまま効力を持つ、唯一の方法です。
② 家族信託
家族信託とは、本人(委託者)が信頼できる家族(受託者)に財産の管理・運用を任せる契約です。認知症発症後も、受託者が柔軟に財産を管理できます。
任意後見との大きな違いは、不動産の売却にも対応できる点と、裁判所を通さず機動的に動ける点です。ただし身上監護(医療・介護サービスの契約)には対応できないため、任意後見との併用を検討する方も多くいます。
③ 代理人カード・委任状の準備
日常的な出金を家族が対応できるよう、銀行の代理人カード発行や特定の手続きへの委任状を事前に準備しておく方法です。
ただし、口座名義人の判断能力が低下した後は代理人カードが使えなくなる場合がほとんどです。あくまで「発症前の日常備え」として位置づけてください。
3制度の比較表——任意後見・家族信託・法定後見のどれを選ぶか
| 比較項目 | 法定後見 | 任意後見 | 家族信託 |
|---|---|---|---|
| 後見人の選び方 | 裁判所が選任 | 本人が指定 | 本人が指定 |
| 費用(月額) | 2〜6万円 | 任意後見監督人報酬(1〜2万円程度) | 初期費用のみ(月額費用ほぼなし) |
| 不動産売却 | 可(裁判所許可要) | 可 | 可(柔軟) |
| 身上監護 | 対応可 | 対応可 | 対応不可 |
| 開始タイミング | 発症後に申立 | 発症前に契約・発症後に開始 | 発症前に契約・契約後から有効 |
| 節税・贈与 | ほぼ不可 | 限定的 | 設計次第で対応可 |
| 終了 | 本人死亡まで(原則) | 本人死亡まで | 目的達成・本人死亡で終了 |
自分の家族の状況(資産の種類・家族構成・目的)によって最適な制度は異なります。専門家(司法書士・弁護士)への相談をおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 法定後見制度と任意後見制度の違いは何ですか?
最大の違いは「後見人を誰が選ぶか」です。法定後見は家庭裁判所が後見人を選任します。任意後見は、本人が元気なうちに信頼できる人を後見人として契約で指定できます。認知症の発症前に準備できるのは任意後見のみです。
Q2. 成年後見人の報酬は誰が払うのですか?
基本的に「本人の財産」から支払われます。後見される本人の口座から毎月報酬が引き落とされていく形になります。報酬は家庭裁判所が決定し、管理財産の額に応じて月2〜6万円が目安です。
Q3. 認知症になってからでも任意後見を使えますか?
使えません。任意後見は「判断能力がある状態」で契約することが条件です。認知症を発症して判断能力が失われた後は、任意後見の新規契約はできません。発症前の準備が前提となる制度です。
Q4. 家族信託は不動産の売却にも対応できますか?
はい、対応できます。家族信託の契約で不動産を信託財産に含めておけば、認知症発症後でも受託者(家族)が不動産を売却できます。ただし信託契約の設計が重要なため、専門家への相談をおすすめします。
Q5. 銀行口座が凍結されたあと、解除する方法はありますか?
原則として、成年後見人(法定後見)が選任されれば、後見人の権限で口座を管理できるようになります。ただし申立から審判確定まで3〜4ヶ月かかり、その間は家族の立て替えが続きます。凍結後の解決策は限られるため、発症前の対策が重要です。
Q6. 法定後見制度の申立には費用はかかりますか?
かかります。申立費用(印紙代・郵便切手代)に加え、医師への鑑定費用(5〜10万円程度)が発生する場合があります。さらに申立後は毎月の後見人報酬が発生します。手続き費用の総額は数十万円になるケースもあります。
まとめ:「発症前しか手が打てない」——今日できる1アクション
法定後見制度の問題点を整理します。
- 家族が後見人になれないケースが8割超
- 月2〜6万円の報酬が亡くなるまで続く
- 「資産保護」が最優先で、生活費や節税対策まで制限される
- 一度始めると原則やめられない
- デジタル資産への対応が手薄
政府は2026年4月に民法改正案を閣議決定・国会提出しましたが、現時点では審議中であり成立していません。施行は早くても2028年度の見込みです。改正の動きは評価できますが、今すぐ備えが必要な方にとって「待てる話」ではありません。
認知症はいつ始まるかわかりません。
今日できる1アクション:
- 家族で「認知症になったら誰が財産管理をするか」を話し合う
- 任意後見または家族信託について、司法書士・弁護士に相談する
- パスワードや金融口座情報をDENなどで安全に整理・保管する
親が元気なうちに、一度だけ、家族会議を開いてみてください。「その時」が来てからでは、取り返しのつかない詰みが待っています。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。
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