「せっかく公正証書遺言を作ったのに、あとで氏名の漢字が間違っていることに気づいた」「財産の分け方が、自分が意図していた内容と違っていた」——公正証書遺言を作成したあとに、こうした間違いに気づいて不安になる方は少なくありません。
結論から言うと、公正証書遺言は自筆証書遺言のように手元で二重線を引いて書き直すことはできません。原本は公証役場に保管されており、遺言者本人であっても勝手に修正することは認められていないためです。しかし、間違いの種類によって取るべき対処法は異なり、正しい手順を踏めば適切に修正することができます。
本記事では、公正証書遺言に間違いが見つかった場合の具体的な対処法、訂正と作り直しの違い、そして何より重要な「間違いを未然に防ぐための事前確認ポイント」まで、実務的な観点から詳しく解説します。
- 公正証書遺言は「あとから自分で訂正できない」— まず知っておくべき原則
- 間違いの種類で対処法が変わる|軽微な誤記・重大な内容ミス・無効リスク
- 軽微な誤記の場合|公証役場での「誤記証明書」による対処
- 財産配分など重大な間違いの場合|新しい遺言書の作成が原則
- 作り直しの費用と手順|2025年10月改正とオンライン作成という選択肢
- 遺言者が亡くなった後に間違いが判明した場合の対処法
- 間違いを防ぐための6つの事前チェックポイント
- 公証人への相談を成功させるコツ
- DENのエンディングノートで公正証書遺言の内容・保管場所を記録する
- 遺言書の内容は定期的に見直すことが重要
- まとめ|間違いに気づいたら自己判断で手を加えず、まず公証役場・専門家に相談を
- よくある質問(FAQ)
公正証書遺言は「あとから自分で訂正できない」— まず知っておくべき原則
公正証書遺言は、公証人が遺言者から聞き取った内容をもとに作成し、原本を公証役場で保管する制度です。この原本は公証人法により厳重に管理されており、遺言者本人であっても手元にある正本や謄本を書き換えたり、二重線で訂正したりすることは認められていません。
これは自筆証書遺言との大きな違いです。自筆証書遺言であれば、民法の定める方式(訂正箇所を指示し、変更した旨を付記して署名・押印する)に従えば遺言者自身で訂正できます。しかし公正証書遺言は公証人が関与して作成された公文書であるため、同じようにはいきません。
手元の正本・謄本を自分で書き換えても、その修正には法的効力がなく、無効になるだけでなく、かえって遺言全体の有効性に疑義を生じさせるリスクもあります。間違いに気づいた場合は、まず自分で手を加えず、後述する正しい手順で対処することが大切です。
間違いの種類で対処法が変わる|軽微な誤記・重大な内容ミス・無効リスク
公正証書遺言の間違いは、大きく3つのタイプに分けて考えると整理しやすくなります。
①軽微な誤記:氏名や住所の漢字の誤り、不動産の地番の記載ミスなど、遺言者の意思そのものには影響しない単純な誤りです。
②内容の誤り:財産の分け方が遺言者の本来の意図と異なっている、特定の相続人への配分が漏れている、といった、遺言の実質的な内容に関わる誤りです。
③法的に無効になり得るケース:証人に欠格事由があった(推定相続人やその配偶者が証人になっていた等)、遺言作成時に遺言者の判断能力(遺言能力)に疑義がある場合など、遺言そのものの有効性が問われるケースです。
同じ「間違い」でも、①は比較的簡単な手続きで対応できる一方、②③は新たな遺言書の作成や、場合によっては法的な争いに発展する可能性もあります。まず自分のケースがどのタイプに当てはまるかを見極めることが、対処の第一歩になります。
軽微な誤記の場合|公証役場での「誤記証明書」による対処
氏名の漢字違いや不動産の地番の記載ミスなど、遺言者の意思には影響しない明白な誤字・脱字については、公証人に申し出ることで「誤記証明書」を発行してもらえる場合があります。
誤記証明書は、遺言書の内容そのものを変更するものではなく、「この部分は記載上の誤りである」ということを公証人が証明する書類です。多くの場合、費用はかからず発行してもらえます。発行後は、公正証書遺言に誤記証明書を添付することで、銀行での相続手続きや法務局での相続登記に対応できるケースがあります。
ただし、誤記として認められる範囲はあくまで「明白な記載ミス」に限られます。財産の分け方や相続人・受遺者の範囲に関わるような内容の違いは、誤記証明書では対応できず、次に説明する「作り直し」が必要になります。まずは遺言を作成した公証役場に相談し、自分のケースが誤記証明書で対応可能かどうかを確認することをおすすめします。
財産配分など重大な間違いの場合|新しい遺言書の作成が原則
誤記の範囲を超えて、財産の分け方や相続人への配分など、遺言の実質的な内容を変更・修正したい場合は、新たに公正証書遺言を作成し直すのが原則的な対処法です。
ここで重要になるのが民法1023条の規定です。同条では、前の遺言と後の遺言の内容が抵触する場合、その抵触する部分については後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなすとされています。つまり、日付の新しい遺言書の内容が優先されるということです。
新しい遺言書を作成する際は、単に訂正したい箇所だけを書き直すのではなく、「前の遺言を撤回し、あらためて以下のとおり遺言する」という形で、遺言全体を作り直すのが一般的です。内容の一部だけを変更した新しい遺言と古い遺言が併存すると、どちらが有効なのか解釈をめぐって相続人間のトラブルにつながりかねないためです。
なお、新しい遺言書は必ずしも公正証書遺言である必要はなく、自筆証書遺言で作成することも法律上は可能です。ただし、確実性や証拠力を考えると、特に財産額が大きい場合や相続人が多い場合は、あらためて公正証書遺言で作成し直すことが推奨されます。
作り直しの費用と手順|2025年10月改正とオンライン作成という選択肢
公正証書遺言を作り直す場合、基本的には新規作成と同様の手数料がかかります。手数料は財産の額や相続人・受遺者の数に応じて算定されるため、一概に「いくら」とは言えませんが、一般的な目安としては10万円〜15万円程度になるケースが多いとされています。2025年10月の手数料改定により、遺言加算(財産総額1億円以下の場合に加算される手数料)は11,000円から13,000円に引き上げられており、以前よりやや費用が上がっている点にも注意が必要です。
作り直しの手続きの流れは、新規作成時とほぼ同じです。
- 戸籍謄本・財産目録・不動産の登記事項証明書など必要書類の準備
- 遺言の内容を記した下書き・案文の作成
- 証人2名の確保(推定相続人やその配偶者・直系血族など、欠格事由に該当する人は証人になれません)
- 公証人との事前打ち合わせ
- 公証役場での作成(内容の読み聞かせ・確認、署名・押印)
また、2025年10月からは公正証書遺言のデジタル化が始まり、Web会議システムを利用したオンラインでの作成も選択肢に加わりました。ただし、公証人が「なりすましの恐れがある」「本人の意思確認が難しい」と判断した場合には、従来どおり対面での手続きが求められます。特に高齢の方の場合、オンライン作成が本当に適しているかどうかは、公証人とよく相談したうえで判断することをおすすめします。
遺言者が亡くなった後に間違いが判明した場合の対処法
公正証書遺言の間違いは、遺言者の生前だけでなく、遺言者が亡くなった後に相続人が遺言書を確認して初めて発覚するケースも少なくありません。この場合、遺言者本人がすでに訂正や作り直しを行うことはできないため、対応方法が変わってきます。
明らかな誤記(氏名や地番の記載ミスなど)であれば、遺言を作成した公証役場に相談することで、亡くなった後であっても誤記証明書の発行を受けられる場合があります。この証明書を相続手続きに活用することで、実務上の支障を減らすことができます。
一方、財産の分け方そのものに疑義がある場合や、遺言の内容どおりに進めることが相続人にとって現実的でない場合は、相続人全員の合意があれば、遺言の内容とは異なる形で遺産分割協議を行うことも可能です。ただし、これはあくまで相続人全員の同意が前提となる方法であり、一人でも同意しない相続人がいれば成立しません。また、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者の職務との関係にも注意が必要です。
いずれのケースも、専門的な判断が必要になる場面が多いため、早い段階で弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。
間違いを防ぐための6つの事前チェックポイント
そもそも間違いが起きなければ、訂正や作り直しの手間もリスクも発生しません。公正証書遺言を作成する際は、次の6つのポイントを事前に確認しておくことをおすすめします。
①不動産情報の正確な確認:登記簿謄本(登記事項証明書)を取得し、地番・地目・面積などを正確に確認します。住所(住居表示)と地番は異なる場合が多く、記憶だけで伝えると誤りが生じやすい部分です。
②金融機関口座情報の正確な記載:銀行名・支店名・口座番号・口座種別(普通・定期など)を、通帳やキャッシュカードで実際に確認しながら記載します。
③相続人の正確な情報:フルネーム(戸籍上の正確な漢字表記)、生年月日、続柄を、戸籍謄本などで確認したうえで伝えます。
④受遺者の住所・氏名の確認:相続人以外に財産を渡したい相手(受遺者)がいる場合は、その方の現在の住所・氏名も正確に確認しておきます。
⑤遺言執行者の指定の確認:遺言の内容を実現する役割を担う遺言執行者を誰にするか、その方の氏名・住所・連絡先も含めて明確にしておきます。
⑥作成後に必ず内容を声に出して読み確認する:公証役場では、作成された遺言の内容が本人と証人に読み聞かされます。このとき「聞いているだけ」にせず、財産の一つひとつ、相続人の一人ひとりについて、自分の意図と一致しているかを実際に声に出して確認する意識を持つことが、間違いの発見につながります。
これらは特別なことではなく、事前の準備次第で誰でも実践できるチェックポイントです。特に①〜④は、公証人との打ち合わせ前に自分で資料をそろえておくことで、当日の確認精度が大きく上がります。
公証人への相談を成功させるコツ
公証人は忙しい中でも丁寧に相談に応じてくれますが、限られた時間を有効に使うためには、こちらの準備も重要です。
事前の下書き・資料持参:財産の分け方や相続人の情報について、簡単な下書き(メモ程度でも構いません)を用意しておくと、公証人とのやり取りがスムーズになります。前述の登記簿謄本や通帳のコピーなど、正確な情報がわかる資料を持参することも有効です。
複数回の確認を前提にする:公正証書遺言の作成は、1回の面談ですべてが完結するとは限りません。案文の確認・修正を挟みながら、複数回のやり取りを経て完成させるのが一般的です。「1回で終わらせよう」と急ぐよりも、疑問点はそのつど確認し、納得できるまで案文をすり合わせる姿勢が、結果的に間違いを防ぐことにつながります。
DENのエンディングノートで公正証書遺言の内容・保管場所を記録する
公正証書遺言そのものは公証役場に原本が保管されているため紛失の心配は少ないものの、「どこの公証役場で作成したか」「遺言執行者は誰に依頼したか」「正本・謄本をどこに保管しているか」といった情報は、遺言者本人以外にはわかりにくいものです。この情報が家族に伝わっていないと、いざというときに遺言の存在自体に気づかれない、あるいは謄本を探すだけで時間がかかってしまうといった事態にもなりかねません。
DENは、公正証書遺言の作成日・作成した公証役場・遺言執行者の連絡先・正本の保管場所といった情報を、暗号化して安全に記録・管理できるデジタル終活サービスです。エンディングノートに遺言の詳細を書き残しておくことで、万が一のときに家族がスムーズに手続きを進められるようになります。現在、サービス開始に向けてモニターを募集しています。詳細はこちらからご確認ください。
デジタル終活を安全・簡単に進めたい方は、DENのモニター募集もあわせてご確認ください。
遺言書の内容は定期的に見直すことが重要
公正証書遺言は一度作成すれば安心、というものではありません。相続人の状況(結婚・離婚・死亡・出生)、保有資産の変化(不動産の売却・新たな金融資産の取得)、家族関係の変化などにより、作成時点では適切だった内容が、時間の経過とともに実情と合わなくなることは珍しくありません。
数年に一度、あるいはライフイベント(相続人の増減、大きな資産の変動など)があったタイミングで、遺言の内容が今の自分の意図と一致しているかを見直す習慣を持つことをおすすめします。見直しの結果、内容を変更したい場合は、本記事で解説したとおり、新たな遺言書を作成することになります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。公正証書遺言の訂正・作り直しの要否や具体的な手続き、遺言能力・証人資格に関する判断、遺産分割協議の進め方などについては、個別の事情によって取るべき対応が大きく異なります。必ず遺言を作成した公証役場、または弁護士・司法書士などの専門家にご相談のうえ、ご自身の判断と責任で対応してください。記事内の情報は作成時点(2026年9月)のものであり、法改正等により変更される場合があります。
まとめ|間違いに気づいたら自己判断で手を加えず、まず公証役場・専門家に相談を
公正証書遺言は、一度作成すると遺言者本人が手元で自由に訂正することはできません。間違いに気づいた場合は、まずその内容が「軽微な誤記」なのか「財産配分など重大な内容の誤り」なのかを見極めることが出発点になります。軽微な誤記であれば誤記証明書での対応が可能な場合があり、内容そのものに関わる誤りであれば、新しい遺言書を作成し直すのが原則です。日付の新しい遺言が優先されるという民法1023条のルールも、あわせて押さえておきましょう。
また、遺言者が亡くなった後に間違いが判明した場合でも、誤記証明書や相続人全員の合意による遺産分割協議など、状況に応じた対処法があります。もっとも大切なのは、間違いに気づいた時点で自己判断で手元の書類を書き換えず、早めに公証役場や弁護士・司法書士といった専門家に相談することです。
そして何より、こうした間違いや訂正の手間を減らす最善の方法は、作成段階での事前確認を徹底することと、作成後も遺言の内容を定期的に見直す習慣を持つことです。今回ご紹介した6つのチェックポイントを参考に、ご自身の遺言の内容をあらためて確認してみてはいかがでしょうか。
なお、公正証書遺言の作成手続きの詳細、遺言書全般の効力と限界、2025年10月から始まったオンライン作成制度については、関連記事で詳しく取り上げていますので、あわせてご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 公正証書遺言の間違いに気づいたら、まず何をすればよいですか?
A1. 自分で手元の正本・謄本を書き換えることはせず、まず遺言を作成した公証役場に相談してください。誤記の内容によっては誤記証明書での対応が可能ですが、財産配分など実質的な内容の誤りであれば、新しい遺言書の作成が必要になるケースが多く、弁護士・司法書士への相談も検討しましょう。
Q2. 誤記証明書はどんな場合でも発行してもらえますか?
A2. 誤記証明書が対応できるのは、氏名や住所の漢字違い、不動産の地番の記載ミスなど、遺言者の意思そのものに影響しない明白な誤りに限られます。財産の分け方など内容に関わる誤りは対象外で、その場合は新たな遺言書の作成が必要です。個別の判断は、作成した公証役場に確認することをおすすめします。
Q3. 公正証書遺言を作り直す場合、以前の遺言はどうなりますか?
A3. 民法1023条により、内容が抵触する部分については、日付の新しい遺言が優先されます。トラブルを避けるため、新しい遺言書では「前の遺言を撤回する」旨を明記したうえで、内容全体をあらためて記載するのが一般的です。
Q4. 作り直しにはどのくらいの費用がかかりますか?
A4. 財産額や相続人・受遺者の数によって手数料は異なりますが、一般的には10万円〜15万円程度が目安とされています。2025年10月の改定により遺言加算が引き上げられているため、詳しい金額は最寄りの公証役場に確認することをおすすめします。
Q5. 遺言者が亡くなった後に間違いが見つかった場合、遺言は無効になりますか?
A5. 軽微な誤記であれば、遺言そのものが無効になるわけではなく、誤記証明書などで対応できる場合があります。内容に疑義がある場合でも、直ちに無効となるとは限らず、相続人全員の合意があれば遺産分割協議で対応する方法もあります。個別のケースについては弁護士・司法書士への相談をおすすめします。
Q6. 遺言書の内容は、どのくらいの頻度で見直すべきですか?
A6. 明確な決まりはありませんが、相続人の状況の変化(結婚・離婚・出生・死亡)や、保有資産に大きな変動があったタイミング、また数年に一度を目安に、内容が現状と合っているかを確認することをおすすめします。見直しの結果、変更が必要であれば新たな遺言書を作成します。
関連記事
– 公正証書遺言は最低2ヶ月かかる|手続き全プロセスと証人確保の落とし穴
– 遺言書の効力と限界|書き方ミスで無効になる?相続トラブルを防ぐ5つの盲点
– 公正証書遺言がオンラインで作成可能に!メリット・デメリットと高齢者が知っておくべき注意点
参考
– 日本公証人連合会「Q&A」
– 法務省 東京法務局「遺言書を作成するときの注意点」
– 上垣司法書士事務所「残された公正証書遺言に誤記があった場合の訂正方法」
(本記事は2026年9月時点の情報に基づいて作成しています。法改正・制度改定等により内容が変更される場合があります。個別の事案については、必ず公証役場、または弁護士・司法書士などの専門家にご相談のうえ、ご自身の判断と責任で対応してください。)


コメント