「長年連れ添ってきたパートナーなのに、婚姻届を出していないというだけで、財産を何も遺せないかもしれない」——事実婚や内縁関係を選んでいるカップルの中には、こうした不安を抱えながらも、なかなか誰にも相談できずにいる方も少なくないのではないでしょうか。
籍を入れる・入れないは、それぞれの家庭の事情や価値観に基づく大切な選択です。夫婦別姓を通したい、これまでの生活や名前を変えたくない、戸籍という制度そのものに違和感がある——理由は人それぞれで、どの選択にも尊重されるべき背景があります。
一方で、法律の世界では、婚姻届を出していないパートナーは「配偶者」として扱われず、相続の場面で厳しい現実に直面することがあります。本記事では、その現実を正直にお伝えしたうえで、大切なパートナーのために今からできる具体的な対策を、税務上の注意点も含めてやさしく解説します。
- 内縁・事実婚とは|夫婦同然の生活でも「配偶者」にはなれない現実
- 内縁の妻・事実婚パートナーに相続権がない理由|民法と法定相続人の範囲
- 遺産は誰のもの?|法律婚の配偶者・子・親・兄弟姉妹が優先される順位
- 内縁関係が認められるケースとその証明方法|住民票の続柄・同居期間・生活実態
- パートナーを守る5つの対策
- 税務上の注意点|内縁パートナーへの遺贈は「贈与税」ではなく実は「相続税」、しかし2割加算に注意
- 子供がいる場合の注意点|前婚の子・認知した子の遺留分とそのリスク
- 事実婚が増えている社会的背景|多様化する家族のかたちとこれからの終活
- パートナー情報・対策内容をエンディングノートに記録する重要性
- よくある質問(FAQ)
- まとめ|「知らなかった」で後悔しないために、今からできる備えを
内縁・事実婚とは|夫婦同然の生活でも「配偶者」にはなれない現実
内縁関係・事実婚とは、婚姻届を提出していないものの、夫婦同然の共同生活を送っている関係を指します。長年一緒に暮らし、生計を共にし、周囲からも夫婦として認識されている——実態としては法律婚とほとんど変わらない関係であっても、戸籍上の婚姻手続きを経ていない限り、法律上の「配偶者」にはなりません。
内閣府男女共同参画局の調査によると、「配偶者(事実婚・内縁)がいる」と回答した人は成人人口の2.3%、別の調査では事実婚を選択している人が2.9%という結果が出ています。決して多数派ではないものの、夫婦別姓を望む方や、戸籍制度に距離を置きたい方など、さまざまな理由から事実婚を選ぶ人は一定数存在し、社会の中で確かな広がりを見せています。
内縁の妻・事実婚パートナーに相続権がない理由|民法と法定相続人の範囲
日本の民法では、相続人になれる「配偶者」を、婚姻届を提出して法律上の婚姻関係にある者に限定しています。どれほど長く連れ添い、実質的に夫婦としての生活を築いていたとしても、婚姻届を出していない内縁のパートナーには、法定相続権が一切認められません。
これは、内縁関係を軽んじているということではなく、「誰が相続人になるか」を客観的かつ画一的に定めることで、相続をめぐる紛争を防ぐという民法の仕組み上の理由によるものです。とはいえ、当事者にとっては納得しがたい現実であることも事実であり、だからこそ「知らなかった」では済まされない備えが必要になります。
遺産は誰のもの?|法律婚の配偶者・子・親・兄弟姉妹が優先される順位
内縁のパートナーに相続権がない以上、遺言書などの対策をしていなければ、遺産は次の順位にしたがって法定相続人に引き継がれます。
- 配偶者(法律婚):常に相続人となります
- 第1順位:子:子がいれば、配偶者とともに相続人になります
- 第2順位:直系尊属(親など):子がいない場合に相続人になります
- 第3順位:兄弟姉妹:子も直系尊属もいない場合に相続人になります
つまり、内縁のパートナーと長年生活を共にしていても、遠方に住む本人の兄弟姉妹が遺産を受け取り、パートナーには何も残らないという事態が起こり得ます。これは決して珍しいケースではなく、実際に相続の現場でしばしば見られる問題です。
内縁関係が認められるケースとその証明方法|住民票の続柄・同居期間・生活実態
相続権そのものは得られませんが、内縁関係が法的に認められることで、後述する対策の実効性が高まったり、特別縁故者として財産を受け取れる可能性が生まれたりする場合があります。内縁関係の成立には、夫婦としての共同生活を送る意思と、実際にその実態が一定期間継続していることが必要とされています。
内縁関係を証明するうえで最も有力とされるのが住民票です。続柄欄に「妻(未届)」「夫(未届)」と記載され、同一世帯として登録されていれば、内縁関係の重要な証拠になります。そのほか、次のような資料を組み合わせることで、より確実に生活実態を示すことができます。
- 賃貸借契約書(同居していることを示す書類)
- 健康保険の被扶養者としての登録記録
- 公共料金の支払い記録や郵便物の宛名
- 冠婚葬祭など周囲から夫婦として扱われてきた記録・写真
これらの証明は、後述する対策を進めるうえでの土台にもなります。パートナーとの生活の記録を日頃から残しておくことは、将来の備えとして大きな意味を持ちます。
パートナーを守る5つの対策
内縁関係には相続権がないという現実を前提に、大切なパートナーに財産を残すための具体的な方法を5つ紹介します。
①遺言書(遺贈)|最も確実な方法
パートナーに財産を残す最も確実な方法は、遺言書によって遺贈することです。遺言書があれば、法定相続人でないパートナーであっても、指定した財産を受け取ることができます。作成の際は、パートナーの氏名・住所・続柄(内縁の妻・夫など)を明確に記載し、財産を特定できるようにしておくことが重要です。
不備によって無効になるリスクを避けるためにも、公正証書遺言として作成することをおすすめします。公証人が関与するため形式的な不備が生じにくく、本人の意思がより確実に反映されます。
②生命保険の受取人指定|遺言書がなくても直接受け取れる
生命保険は、契約時に受取人を指定しておけば、遺言書がなくても保険会社から直接パートナーへ支払われます。遺産分割協議を経ずに、比較的速やかに資金を受け取れる点は、当面の生活費や葬儀費用の備えとしても心強い方法です。保険会社によっては、内縁関係の証明書類の提出を求められる場合があるため、契約時に確認しておくと安心です。
③家族信託|財産管理を託す
家族信託は、自分の財産の管理や運用をあらかじめ信頼できる人に託しておく仕組みです。認知症などで判断能力が低下した後も、事前に定めた契約内容に沿ってパートナーの生活資金を管理・給付できるように設計することができ、遺言書と組み合わせることで、より柔軟な備えが可能になります。制度設計には専門的な知識が必要になるため、司法書士や弁護士への相談が欠かせません。
④死後事務委任契約|葬儀・手続きを任せる
法律婚の配偶者と異なり、内縁のパートナーには、葬儀の手配や役所への諸手続き、賃貸住宅の解約といった「死後の事務」を行う法的な権限が当然には認められません。死後事務委任契約を結んでおけば、こうした手続きをパートナーに委任することができ、いざというときに周囲を頼れず困ってしまう事態を防ぐことができます。
⑤任意後見契約|認知症に備える
将来、判断能力が低下した場合に備え、あらかじめ後見人になってもらいたい人と契約を結んでおくのが任意後見契約です。法律婚の配偶者であれば当然に近い立場で関われる場面でも、内縁関係のパートナーは何の権限も持たないことがあります。任意後見契約を結んでおくことで、パートナーが財産管理や医療・介護に関する意思決定を支える立場になることができます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務相談ではありません。個別の対策の実行にあたっては、必ず弁護士・税理士・司法書士などの専門家にご相談ください。記事内の情報は作成時点(2026年8月)のものであり、法改正等により内容が変更される場合があります。
税務上の注意点|内縁パートナーへの遺贈は「贈与税」ではなく実は「相続税」、しかし2割加算に注意
内縁のパートナーへの遺贈や生命保険金の受け取りは、法律上の相続ではなくても、税法上は相続税の課税対象として扱われます。ここで見落とされがちなのが、法定相続人ではない人が財産を取得した場合に適用される「相続税額の2割加算」です。
配偶者・子・親(一親等の血族)以外の人が相続や遺贈によって財産を取得した場合、算出された相続税額に2割が上乗せされます。内縁のパートナーはこの2割加算の対象となるため、同じ額の財産を受け取っても、法律婚の配偶者に比べて税負担が重くなる点は、事前にしっかり理解しておく必要があります。
また、生前贈与によってパートナーに財産を渡す場合は、贈与税の対象となります。贈与税は相続税に比べて税率が高く設定されているため、まとまった財産を一度に贈与すると、想定以上の税負担が生じることがあります。生前贈与と遺言による遺贈、生命保険の活用をどう組み合わせるかは、税理士に相談しながら慎重に設計することをおすすめします。
子供がいる場合の注意点|前婚の子・認知した子の遺留分とそのリスク
パートナーに財産を多く残したいと考えていても、本人に前婚の子や認知した子がいる場合には、注意が必要です。これらの子は法定相続人にあたり、遺留分(法律上最低限保障された取り分)を持っています。
遺言書によってパートナーに全財産を遺贈する内容にしていても、子の遺留分を侵害している場合、子から遺留分侵害額請求をされる可能性があります。請求が認められれば、パートナーは受け取った財産の一部を金銭で返還しなければならず、結果として大きなトラブルに発展することもあります。
こうした事態を避けるためには、遺留分を考慮したうえで遺言の内容を設計することが欠かせません。「パートナーにどこまで財産を残せるか」「子の遺留分をどう確保するか」というバランスは、専門家の助言なしに判断するのが難しい領域です。弁護士に相談しながら、家族全体にとって納得感のある形を目指すことが大切です。
事実婚が増えている社会的背景|多様化する家族のかたちとこれからの終活
夫婦別姓を通したい、これまでのキャリアや社会的な名前を維持したい、戸籍という制度そのものに疑問を感じる——事実婚を選ぶ理由は人によってさまざまです。婚姻の形は一つではなく、それぞれの家庭にそれぞれの事情があります。
一方で、現在の法制度は、婚姻届を出しているかどうかで相続をはじめとする権利関係を大きく区別しています。こうした制度と実態のギャップは、事実婚を選ぶカップルにとって、法律婚のカップル以上に「自分たちで備えておく」ことの重要性を高めています。家族のかたちが多様化していく中で、パートナーとの関係を守るための終活は、今後さらに重要なテーマになっていくと考えられます。
パートナー情報・対策内容をエンディングノートに記録する重要性
ここまで紹介してきた対策は、いずれも一度実行すれば終わりというものではなく、契約内容や財産状況の変化に応じて見直しが必要です。また、いざというときにパートナーがこれらの対策の存在をすぐに把握できるよう、情報を整理して残しておくことも欠かせません。
エンディングノートに、パートナーとの関係性や、作成した遺言書・保険契約・家族信託・死後事務委任契約・任意後見契約の内容や保管場所を記録しておけば、緊急時にも迷わず必要な行動を取ることができます。DENは、こうした大切な情報を暗号化して安全に保管するデジタル終活サービスです。現在、サービス開始に向けてモニターを募集しています。詳細はこちらからご確認ください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 内縁関係が長ければ、相続権が認められることはありますか?
A1. 内縁関係の期間の長さにかかわらず、婚姻届を提出していない以上、法定相続権は認められません。財産を残したい場合は、遺言書などの対策を生前に講じておく必要があります。
Q2. 内縁のパートナーが遺産を一切受け取れない場合、他に方法はありますか?
A2. 法定相続人が誰もいない場合に限り、特別縁故者として家庭裁判所に財産分与を申し立てられる可能性があります。ただし、これは相続人が一人もいない場合の例外的な制度であり、確実な方法とは言えません。生前の対策のほうが現実的です。
Q3. 遺言書があれば、パートナーへの遺贈は必ず実現しますか?
A3. 遺言書があっても、法定相続人の遺留分を侵害する内容になっている場合、遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。子など遺留分権利者がいる場合は、その点を考慮した内容にしておくことが重要です。
Q4. 内縁のパートナーへの遺贈にかかる税金は、法律婚の配偶者と同じですか?
A4. 異なります。内縁のパートナーは相続税額の2割加算の対象となるほか、配偶者の税額軽減など法律婚の配偶者に認められる特例も原則として適用されません。税負担は法律婚の配偶者に比べて重くなる傾向があります。
Q5. 内縁関係を証明する書類は、どのくらい前から準備しておくべきですか?
A5. 決まった期間はありませんが、住民票の続柄記載や各種契約書などは、日頃の生活の中で自然に積み重なっていくものです。早い段階から意識して記録・保管しておくことをおすすめします。
Q6. 家族信託や死後事務委任契約は、自分たちだけで作成できますか?
A6. 契約自体は可能ですが、内容に不備があると意図した効果が得られないおそれがあります。特に家族信託は専門性が高いため、司法書士や弁護士など専門家のサポートを受けて作成することを強くおすすめします。
Q7. 事実婚を選んでいることを、家族に伝えるべきか迷っています。
A7. お二人の関係やご家族との事情によって最適な判断は異なります。ただし、相続対策を実行するうえでは、財産の内容や契約の存在について、信頼できる専門家に相談しておくことが、いざというときのパートナーを守ることにつながります。
まとめ|「知らなかった」で後悔しないために、今からできる備えを
内縁関係・事実婚のパートナーには法定相続権がないという現実は、当事者にとって厳しく感じられるかもしれません。しかし、遺言書による遺贈、生命保険の受取人指定、家族信託、死後事務委任契約、任意後見契約という5つの対策を組み合わせることで、大切なパートナーの生活と権利を守ることは十分に可能です。
税務上は相続税額の2割加算という負担があり、子がいる場合は遺留分への配慮も欠かせません。いずれも専門的な判断が必要な領域であるため、弁護士・税理士・司法書士といった専門家に早めに相談し、お二人の関係に合った形を一緒に考えていくことをおすすめします。
対策の内容や大切な思いは、記録として残しておかなければ、いざというときに伝わりません。DENは、相続・遺言・終活に関する大切な情報を暗号化して安全に保管するデジタル終活サービスです。現在、サービス開始に向けてモニターを募集しています。詳細はこちらからご確認ください。
なお、生命保険金の相続税上の扱いや、再婚した場合の相続権、遺言書による相続トラブルの防ぎ方については、関連記事で詳しく取り上げていますので、あわせてご確認ください。
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参考
– 内閣府男女共同参画局「コラム3 事実婚の実態について」
– 国税庁タックスアンサー「相続税額の2割加算」
– 国税庁タックスアンサー「贈与税の計算と税率」
(本記事は2026年8月時点の情報に基づいて作成しています。法律・税制情報は今後の改正により変更される場合があります。個別の相続対策や税務判断については、必ず弁護士・税理士・司法書士など専門家にご相談ください。)


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