親が住んでいた実家を相続したものの、誰も住む予定がなく、かといって手放すのも踏ん切りがつかない——そんな状態のまま空き家を放置していないでしょうか。
相続した空き家を売却する際には、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の3,000万円特別控除」、通称「空き家特例」を使えれば、譲渡所得税を大きく軽減できます。2024年1月の税制改正で適用条件が一部緩和された一方、控除額が縮小されるケースも新たに生まれました。この記事では、空き家特例の基本的な仕組み、2024年改正で変わった点、使える人・使えない人の見分け方、売却期限の計算方法、確定申告の手続き、そして空き家を放置するリスクまでを整理します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。
空き家特例(3,000万円特別控除)とは
空き家特例とは、相続した被相続人(亡くなった方)の居住用家屋やその敷地を売却した際に、一定の要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。譲渡所得とは、不動産の売却価格から取得費や譲渡費用を差し引いた利益にあたる部分で、通常はここに所得税・住民税が課税されます。
制度の対象となるのは、令和9年(2027年)12月31日までに行われる譲渡です。相続によって使い道のない空き家を抱え、放置か売却かの判断を迫られる相続人が増えていることを背景に設けられた特例で、要件を満たせば譲渡益にかかる税負担を大きく圧縮できます。
2024年1月改正で何が変わったのか
2024年1月1日以降の譲渡分から、空き家特例の適用条件が一部見直されました。ここを正確に理解しておかないと、「使えるはずが使えなかった」あるいは逆に「対象外だと思っていたら実は対象だった」という誤解が生じやすい部分です。
変更点①:買主側での取り壊し・耐震改修もOKに
2023年12月31日までの譲渡では、売却前(引き渡し前)に売主自身が家屋を取り壊すか、耐震基準に適合するリフォームを行っておく必要がありました。老朽化した空き家を売りに出す前に、自己負担で解体工事を済ませなければならなかったのです。
2024年1月1日以降は、買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに取り壊しまたは耐震改修を行った場合でも、特例の対象になるよう緩和されました。売主が先に解体費用を負担する必要がなくなり、古家付きのまま売却してから買主側で対応してもらう選択肢が現実的になっています。
変更点②:相続人が3人以上の場合は控除額が縮小
2024年1月1日以降の譲渡では、相続人が3人以上いる場合、1人あたりの控除上限が2,000万円に引き下げられました。相続人が1人または2人の場合は、これまでどおり1人あたり最大3,000万円の控除が受けられます。共有名義で相続したきょうだいが多いケースでは、控除額の試算を見直しておく必要があります。
変更ないポイント:マンションは引き続き対象外
空き家特例は、区分所有建物登記がされている建物、いわゆる分譲マンションには適用できません。この点は2024年改正の前後で変わっておらず、戸建て住宅のみを対象とした制度です。マンションを相続して売却する場合、この特例は使えない点を最初に押さえておく必要があります。
適用条件チェックリスト(使える人・使えない人)
空き家特例を利用できるかどうかは、次の条件をすべて満たしているかで判断します。
適用できる主な条件
- 家屋が昭和56年(1981年)5月31日以前に建築されたものであること
- 相続開始の直前まで、被相続人がその家屋に居住していたこと(老人ホーム等入所の場合の特例あり)
- 相続開始の直前に、被相続人以外に居住していた人がいなかったこと
- 相続してから譲渡するまでの間、事業用・貸付用・居住用として一度も使用していないこと
- 譲渡価格が1億円以下であること
- 戸建て(区分所有建物登記のある建物、つまりマンションではないこと)
適用できないケース
- 相続した空き家を賃貸に出していた、または誰かが事業用に使っていた
- マンション(区分所有建物)である
- 昭和56年6月1日以降に建築された家屋である(旧耐震基準に該当しない)
- 売却期限(後述)を過ぎてから譲渡した
該当するかどうか迷う場合は、後述する市区町村発行の「被相続人居住用家屋等確認書」の申請段階で、要件を満たしているかの確認を受けることになります。
売却期限の計算方法
空き家特例が使えるのは、「相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」に譲渡した場合に限られます。この表現はやや分かりにくいため、具体的な日付で確認しておきましょう。
たとえば、2025年6月10日に相続が開始した(被相続人が亡くなった)場合、そこから3年を経過する日は2028年6月10日です。この日が属する年、つまり2028年の12月31日までに譲渡すれば、期限内ということになります。
一方、2025年1月20日に相続が開始した場合は、3年経過日は2028年1月20日となり、その日が属する2028年12月31日が期限です。相続開始のタイミングによって、実質的な猶予期間は「3年強〜4年弱」の幅があることになります。焦って安値で手放す必要はありませんが、期限を逆算したスケジュール管理が欠かせません。
確定申告の手続き
空き家特例の適用を受けるには、確定申告が必須です。手続きは大きく2段階に分かれます。
STEP1 市区町村から「被相続人居住用家屋等確認書」を取得する
売却の前後いずれのタイミングでも、家屋がある市区町村の窓口に申請し、相続開始の直前まで被相続人が居住し、その後空き家であったことなどを証明する「被相続人居住用家屋等確認書」を取得します。この確認書がなければ、確定申告で特例を適用することができません。
STEP2 譲渡した翌年に確定申告を行う
家屋・土地を売却した翌年の2月16日から3月15日までの間に、管轄の税務署へ確定申告を行います。主な必要書類は次のとおりです。
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
- 被相続人居住用家屋等確認書(市区町村発行)
- 登記事項証明書
- 耐震基準適合証明書(または建設住宅性能評価書の写し、取り壊した場合は関連書類)
- 売買契約書の写しなど、譲渡価格が1億円以下であることを示す書類
確認書の発行には一定の日数がかかる自治体もあるため、売却を決めた段階で早めに申請しておくことをおすすめします。
空き家を放置するリスク
「まだ売らなくても大丈夫」と空き家をそのままにしておくと、次のようなコストとリスクが積み上がっていきます。
維持管理コストは年間10万〜35万円程度
空き家であっても、固定資産税・都市計画税に加え、庭木の剪定や建物の点検、遠方であれば管理会社への委託費や訪問時の交通費がかかります。建物の規模や立地にもよりますが、年間の維持費はおおむね10万円〜35万円程度が目安とされています。誰も住んでいないのに、この負担だけが毎年発生し続けることになります。
特定空き家・管理不全空き家に指定されると固定資産税が実質増税
適切な管理がされず倒壊の危険や衛生上の問題がある空き家は、自治体から「特定空き家」または「管理不全空き家」に指定されることがあります。指定を受けて是正の勧告に応じないまま放置すると、翌年1月1日の賦課期日時点で、固定資産税の住宅用地特例(更地に比べ税額を軽減する措置)が解除されます。
結果として、固定資産税と都市計画税をあわせた実質的な負担が数倍に膨らむケースがあり、固定資産税が年6万円から42万円に跳ね上がった事例も報告されています。「空き家だから税金が安い」という状態は、管理を怠った時点で一転してしまう点に注意が必要です。
売却 vs 相続土地国庫帰属制度、どちらが得か
使い道のない不動産を手放す方法として、空き家特例を使った売却のほかに、土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」もあります。両者は目的も条件もまったく異なるため、簡単に比較しておきます。
| 比較項目 | 空き家特例による売却 | 相続土地国庫帰属制度 |
|---|---|---|
| 対象 | 昭和56年5月31日以前築の戸建て(建物付き) | 主に建物のない土地(更地であることが前提) |
| お金の流れ | 売却代金が手元に入り、譲渡所得税は控除で軽減 | 手元に代金は入らず、逆に負担金(原則20万円程度〜)を国に納付 |
| 手続きの主体 | 不動産会社等を通じた売買 | 法務局への申請・審査(承認率は約5割程度) |
| メリット | 現金化でき、税負担も抑えられる | 買い手がつかない土地でも手放せる可能性がある |
| デメリット | 買い手が見つからない場合は時間がかかる | 建物がある土地は原則対象外、審査に時間がかかる |
建物付きの空き家で、まだ市場価値が見込める場合は、空き家特例を使った売却の方が現実的な選択肢になりやすいといえます。一方、建物を解体した後の土地に買い手がつかない場合は、国庫帰属制度も検討の余地があります。どちらが有利かは物件の状態や立地によって異なるため、不動産会社や専門家への相談を通じて判断することをおすすめします。
DENのエンディングノートで不動産情報を記録しておく
空き家特例の手続きでは、家屋の建築年、被相続人がいつまで居住していたか、登記情報、耐震診断・改修に関する記録の有無などが必要になります。これらの情報が生前に整理されていないと、相続人は建築確認資料や登記簿を一から集め直すことになり、期限内の売却が難しくなることもあります。
- 不動産の所在地・築年数・登記情報
- 被相続人がその家屋にいつまで居住していたか
- 権利証(登記識別情報)や固定資産税納税通知書の保管場所
- リフォーム歴・耐震診断の有無
こうした情報をエンディングノートにまとめておけば、相続後の期限内売却や特例適用の判断がスムーズになります。デジタル終活を安全・簡単に進めたい方は、DENのモニター募集をご確認ください。
税理士に相談すべきタイミング
空き家特例は要件が細かく、確認書の取得や譲渡所得の計算にも専門知識が必要です。相続が発生した時点、あるいは売却を検討し始めた時点で、早めに税理士へ相談することを強くおすすめします。
特に、相続人が複数いて共有名義になっている場合や、被相続人が老人ホームに入所していた場合など、通常の要件確認だけでは判断がつきにくいケースでは、専門家の関与によって特例の適用可否や控除額の見込みを早期に把握できます。売却スケジュールを期限から逆算するためにも、早期相談が結果的に手続きの負担を減らすことにつながります。
よくある質問(FAQ)
Q1. マンションを相続して売却する場合、空き家特例は使えますか?
A1. 使えません。空き家特例は区分所有建物登記のある建物、つまり分譲マンションを対象外としており、2024年改正後もこの点は変わっていません。
Q2. 空き家を賃貸に出してから売却した場合はどうなりますか?
A2. 相続してから譲渡するまでの間に事業用・貸付用として使用した実績があると、空き家特例は適用できません。空き家のまま維持していることが要件です。
Q3. 相続人が3人いる場合、控除額はどうなりますか?
A3. 2024年1月1日以降の譲渡では、相続人が3人以上の場合、1人あたりの控除上限が2,000万円になります。相続人が1人または2人であれば、1人あたり最大3,000万円のままです。
Q4. 「被相続人居住用家屋等確認書」はどこで取得しますか?
A4. 家屋が所在する市区町村の窓口で申請・取得します。発行までに日数がかかる自治体もあるため、売却を決めた段階で早めに申請することをおすすめします。
Q5. 売却の期限を過ぎてしまったらどうなりますか?
A5. 「相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日」を過ぎて譲渡した場合、空き家特例は適用できなくなります。期限を意識した早めのスケジュール管理が重要です。
Q6. 空き家を解体してから売却したほうが有利ですか?
A6. 2024年1月1日以降は、買主が売却後に取り壊しや耐震改修を行った場合でも特例の対象になるため、必ずしも売主が先に解体する必要はありません。物件の状態や不動産会社の助言も踏まえて判断することをおすすめします。
まとめ|期限を逆算した早めの準備が鍵
空き家特例は、相続した戸建ての空き家を売却する際に譲渡所得から最大3,000万円を控除できる、相続人にとって心強い制度です。2024年の改正では、買主側での取り壊し・耐震改修が認められるようになった一方、相続人が3人以上の場合は控除額が縮小されました。マンションは引き続き対象外である点にも注意が必要です。
「相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」という期限を正しく把握し、被相続人居住用家屋等確認書の取得や確定申告の準備を早めに進めておくことが、制度を確実に活用する鍵になります。あわせてエンディングノートで不動産の情報を整理しておけば、相続発生後の対応もスムーズです。DENは、相続・遺言・終活に関する大切な情報を暗号化して安全に保管するサービスとして、現在サービス開始に向けてモニターを募集しています。詳細・事前予約はこちらからご確認ください。
なお、空き家特例の適用可否や控除額の試算は、家屋の状態や相続関係によって個別に判断が必要です。実際の手続きについては、税理士など専門家に相談のうえ進めることを強くおすすめします。
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参考
– 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
– 国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)」
(本記事は2026年8月時点の情報に基づいて作成しています。最新の制度内容は国税庁・国土交通省の公式サイトでご確認ください。)


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