最終更新日:2026年7月31日
※本記事は2026年7月時点の情報です。AI技術・関連法制度は急速に変化しているため、最新情報は法務省・公証役場等の公式情報もあわせてご確認ください。
「ChatGPTに遺言書を書いてもらって、そのまま印刷すれば楽なのでは」——そう考える方が増えています。結論から言うと、AIが生成した文章をそのまま印刷し、署名だけを自分で書いた遺言書は、自筆証書遺言としては無効になります。
一方で、AIの使い方次第では、遺言書作成を安全に効率化することも可能です。この記事では、自筆証書遺言・公正証書遺言・2026年に新設されたデジタル遺言のそれぞれについて、AIをどこまで・どう使えるのかを整理します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。
自筆証書遺言の「自書」要件(民法968条)とAIとの相性
民法968条第1項は、自筆証書遺言について「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と定めています。ポイントは「自書」、つまり本人が自分の手で書くことが必須という点です。
判例上、自書が要件とされる理由は、筆跡によって本人が書いたと判定でき、それ自体が遺言者の真意を保障する材料になるからだとされています。裏を返せば、パソコンやAIで全文を作成し、印刷したものに署名だけを書き加えても、この「自書」の要件を満たしません。財産目録については自書が不要という例外はありますが、本文はあくまで手書きが原則です。
つまり、ChatGPTやClaudeに「遺言書を書いて」と依頼し、出力された文章をそのまま印刷して押印しても、法的には無効な文書になってしまいます。ここが、AI活用で最も誤解されやすいポイントです。
公正証書遺言ならAI下書き→公証人仕上げで有効活用できる
自筆証書遺言と異なり、公正証書遺言はAIとの相性がよい方式です。公正証書遺言は、遺言者の口述をもとに公証人が作成する遺言であり、遺言者自身が全文を手書きする必要がありません。
そのため、AIに「相続財産の分け方の案」や「伝えたい想いの文章」を下書きとして作ってもらい、それをたたき台に公証役場で公証人と内容を詰めていく、という使い方は問題ありません。むしろ、自分の考えを整理する段階でAIを壁打ち相手として使うことは、効率化として有効です。2025年10月からは公正証書の作成手続きがオンラインでも可能になり、リモートでの相談・作成がしやすくなっています。詳しい手続きの流れは、公正証書遺言がオンラインで作成可能に!メリット・デメリットと高齢者が知っておくべき注意点で解説していますので、あわせてご覧ください。
2026年新設「デジタル遺言(保管証書遺言)」とAIの組み合わせ
2026年6月17日に成立、同月24日に公布された改正民法により、「保管証書遺言」という新しい遺言方式が誕生しました。約130年ぶりの新方式追加であり、スマートフォンやパソコンで作成した遺言に電子署名を付けて法務局にオンライン提出できる仕組みです。
この制度の重要なポイントは、電子署名を付けるだけでは足りないという点です。なりすましや強要を防ぐため、法務局の職員の前で、あるいはWeb会議システムを通じて、遺言者本人が全文を口授(読み上げ)する手続きが求められます。つまり、AIが生成した文章であっても、本人が内容を理解し、自分の言葉として読み上げられる状態になっていれば、有効な遺言として扱われる可能性が広がるということです。
ただし、この制度は2026年7月時点ではまだ施行されておらず、公布から3年以内に政令で定める日から運用が始まる予定です。「AIで作った文章に電子署名すればすぐ使える」という段階には至っていない点に注意してください。制度の詳しい概要は、130年ぶりの遺言革命!「デジタル遺言(保管証書遺言)」とは?2026年改正民法で何が変わるか【速報解説】にまとめています。
AIが書いた「遺書」に法的効力はない
「遺言書」と「遺書」は混同されがちですが、法的な意味はまったく異なります。遺書とは、自分の思いや事情を伝えるための手紙であり、そもそも法律上の効力を持つ文書ではありません。AIに遺書の文面を書いてもらったとしても、それは気持ちを言葉にする手助けにはなっても、財産の分け方などを法的に定める効力はありません。
財産分与や相続に関する意思を法的に有効な形で残したいのであれば、自筆証書遺言・公正証書遺言・(施行後の)デジタル遺言といった、法律で定められた方式に沿う必要があります。遺言書と遺書の違いをより詳しく知りたい方は、遺言書と遺書の違いとは?混同されがちな2つの言葉の意味・法的効力を徹底解説を参照してください。
デジタル終活を効率的に進めたい方は、DENのモニター募集もご確認ください。AIとの対話ログや作成過程のメモも含めて、家族に伝えたい情報を安全に整理しておくことができます。
海外の動き|オーストラリア・アメリカの視点
海外でもAIと遺言をめぐる議論は始まっています。オーストラリアには「informal will(方式不備の遺言)」という考え方があり、法律上の厳格な方式を満たしていなくても、裁判所が遺言者の真意を認定できれば有効な遺言として扱われる余地があります。この点は、方式を欠くとほぼ無効になる日本の厳格方式主義とは対照的です。ただし、オーストラリアの資産管理業界団体からも「AIだけに任せた遺言作成は危険」という注意喚起が出されており、AI任せのリスクは各国共通の課題といえます。
アメリカでは、AI生成コンテンツをめぐる著作権訴訟や、AIが誤った判例を提示する「ハルシネーション」を巡るトラブルが相次いで報告されています。遺言・相続分野に特化した大規模訴訟はまだ確認されていませんが、弁護士会や実務家からは、AIを使う場合も専門家による最終確認を欠かさないよう呼びかけが強まっています。
「AIは下書きに使う」が結論|無効を避ける実践のコツ
ここまでの内容を整理すると、AI活用が無効につながるケースと、有効に活用できるケースは次のように分かれます。
無効になりやすいのは、AIが生成した文章をそのまま印刷し、署名欄だけ自分で書いて自筆証書遺言として提出するケースです。自書の要件を満たさないため、家庭裁判所の検認の段階、あるいは相続手続きの中で無効と判断されるおそれがあります。
一方、有効に活用できるのは、AIを「考えを整理する壁打ち相手」や「下書き作成ツール」として使い、自筆証書遺言であれば全文を自分の手で書き写す、公正証書遺言であれば公証人との打ち合わせ資料として使う、というケースです。デジタル遺言についても、施行後は電子署名と口授の手続きを正しく踏むことが前提になります。
いずれの方式でも、最終的な内容の確認は専門家に依頼することを強くおすすめします。AIは便利な補助ツールですが、法的な有効性を保証してくれるものではありません。
まとめ|AI活用の記録を家族と残しておく大切さ
AIで遺言書を「作る」ことと、AIを使って遺言書作成を「進めやすくする」ことは、似ているようでまったく違う話です。この違いを理解しておくだけで、せっかく準備した遺言が無効になるリスクを大きく減らせます。
また、AIとどんなやり取りをしながら考えを整理したのか、どんな想いで財産の分け方を決めたのかという過程は、遺言書そのものには残りません。こうした背景や意図を家族に伝えておくことも、遺された家族の納得感につながります。
DENは、相続・遺言・終活に関する大切な情報を暗号化して安全に保管するデジタル終活サービスです。現在、サービス開始に向けてモニターを募集しています。詳細・事前予約はこちら
よくある質問(FAQ)
Q1. ChatGPTで作った遺言書をそのまま印刷して使えますか?
使えません。自筆証書遺言は民法968条により全文・日付・氏名を本人が自書することが必須です。印刷した文章に署名だけを加えても、自書の要件を満たさず無効になります。
Q2. AIを使うこと自体が禁止されているのですか?
禁止されていません。考えを整理する下書きやたたき台としてAIを使うことは問題ありません。重要なのは、最終的にどの方式(自書・公証人作成・電子署名+口授)で正式な遺言に仕上げるかです。
Q3. 公正証書遺言ならAIで作った文章をそのまま使えますか?
AIの下書きを公証人との打ち合わせ資料として使うことは可能です。ただし最終的な文言は公証人が遺言者の意思を確認しながら作成するため、AIの出力がそのまま採用されるわけではありません。
Q4. デジタル遺言(保管証書遺言)はいつから使えますか?
2026年6月に公布された改正民法で新設されましたが、2026年7月時点ではまだ施行されていません。公布から3年以内に政令で定める日から運用が始まる予定です。
Q5. 電子署名さえあればAIが書いた文章でも遺言として有効になりますか?
電子署名だけでは不十分です。なりすまし・強要防止のため、法務局職員の前またはWeb会議で遺言者本人が全文を口授する手続きが必要になる見込みです。
Q6. 遺書とエンディングノートは同じものですか?
異なります。遺書は思いを伝える手紙であり法的効力はありません。エンディングノートも法的効力はありませんが、家族への情報共有や意思確認のツールとして、遺言書と組み合わせて使うことが推奨されています。
専門家監修について:本記事は民法(e-Gov法令検索)・法務省・日本公証人連合会等の公開情報をもとに、DENオウンドメディア編集部が作成しています。個別の遺言作成・相続に関する判断は、必ず弁護士・司法書士・公証人等の専門家にご相談ください。
参考資料:
– e-Gov法令検索「民法(第968条 自筆証書遺言)」(elaws.e-gov.go.jp)
– 日本公証人連合会「遺言」(koshonin.gr.jp)


コメント