公開日:2026年8月15日 / 最終確認日:2026年8月15日
フォーカスKW:中小企業 相続 自社株 事業承継 落とし穴
カテゴリ:相続・遺言
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務相談ではありません。自社株の評価・事業承継税制の適用・個人保証の承継など、個別の判断が必要な事項については、必ず税理士・弁護士・中小企業診断士など専門家にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。
「会社は元気に回っているし、相続のことは後継者に任せておけば大丈夫」——そう考えている中小企業オーナーの方は少なくありません。
しかし、中小企業庁の集計では、70歳を超える経営者は全国で約245万人にのぼり、そのうち約半数の127万人が後継者未定という状況です。そして、後継者が決まっていても、相続対策を何もしていなければ、いざというときに会社の存続そのものを揺るがす事態に発展しかねません。
その最大の原因が「自社株」です。上場株式と違い、非上場の自社株は換金しにくいにもかかわらず、相続税評価額が想定以上に高額になることがあります。しかも、自社株は現金のように単純に分けられる資産ではなく、経営権そのものを左右する特殊な資産でもあります。
本記事では、中小企業オーナーの相続で特に陥りやすい5つの落とし穴を具体的なシナリオとともに整理し、事業承継税制の活用や生前対策の重要性について解説します。
自社株の相続税評価はなぜ高額になるのか
まずは、自社株の評価がどのように決まるのかを確認しましょう。
非上場株式(自社株)の相続税評価は、会社の規模に応じて主に3つの方式が使い分けられます。大会社は上場している同業他社の株価をもとにした「類似業種比準価額方式」、小会社は会社の純資産をもとにした「純資産価額方式」、中会社はこの2つを組み合わせた方式で評価するのが原則です。
ここで見落とされがちなのが、業績が好調で内部留保が厚い会社ほど、自社株の評価額は上がりやすいという点です。オーナーからすれば「利益を積み上げてきた成果」であっても、相続税の計算上は「評価額の高い資産」として扱われてしまいます。
さらに、後継者となる同族株主が取得する株式は原則の評価方式が適用される一方、経営に関与しない少数株主が取得する株式は配当還元方式という簡易な方式が使われることもあり、同じ会社の株式でも取得する相続人によって評価額が変わる複雑さも、自社株評価を分かりにくくしている要因のひとつです。
「株を売って現金化できるわけではないのに、評価額だけが高くなる」——この自社株特有のねじれこそが、次に紹介する5つの落とし穴を生み出す根本原因になります。
中小企業オーナーの相続で陥る5つの落とし穴
自社株にまつわる相続トラブルには、いくつかの典型的なパターンがあります。ここでは代表的な5つの落とし穴を、具体的なシナリオとともに見ていきましょう。
落とし穴①自社株の相続税が払えず会社の資金を使わざるを得ない
自社株は非上場のため、市場で売却して現金化することができません。しかし相続税は原則として現金一括納付が求められるため、評価額が高額であるほど、相続人の手元資金だけでは支払いきれないという事態が起こります。
※以下は理解を助けるための構成例です。
ある製造業の後継者は、先代から自社株の大半を相続しました。評価額は1億円を超えていましたが、手元の現金はわずかで、金融機関からの借入や、会社からの役員報酬の前倒し受け取りによって、ようやく納税資金を工面したといいます。事業の運転資金にまで手をつけかけたことで、資金繰りが一時的に厳しくなりました。
相続税の納税資金を自社株以外でどう確保するかは、生前から準備しておくべき最重要課題のひとつです。
落とし穴②後継者以外の相続人にも自社株の相続権がある
自社株は「後継者が継ぐもの」と考えられがちですが、法律上は他の資産と同じく、相続人全員に相続権があります。遺産分割協議で株式が複数の相続人に分散すると、後継者の議決権比率が下がり、経営の意思決定に支障が出るリスクが生じます。
対策としては、後継者に議決権の3分の2以上に相当する株式を集中させることが目安とされています。株式が分散したまま放置されると、経営方針や配当政策をめぐって相続人間で意見が対立し、いわゆる「お家騒動」に発展するケースも報告されています。
落とし穴③遺言書なしで相続すると、後継者でない相続人が株主になる
遺言書がない場合、自社株を含む遺産は法定相続分に基づく遺産分割協議で分けられます。後継者以外の相続人が自社株を取得すると、経営に関与していないにもかかわらず、株主として議決権を行使できる立場になってしまいます。
※以下は理解を助けるための構成例です。
ある小売業のオーナーが遺言書を残さずに亡くなり、自社株は後継者である長男と、経営に関わっていなかった次男とで法定相続分どおりに分割されました。次男は経営方針に度々異を唱えるようになり、重要な意思決定のたびに株主総会での説得に時間を要するようになったといいます。
こうした事態を避けるためには、遺言書によって自社株の承継先をあらかじめ明確にしておくことが、もっとも基本的かつ有効な対策になります。遺産分割協議によるトラブルの正しい知識については、遺産を独り占めされた…その手口と対処法|遺言書で防ぐ相続トラブルの正しい知識もあわせてご覧ください。
落とし穴④相続税の納税資金が不足する
自社株の評価額が高く、他の資産だけでは相続税をまかないきれない場合、延納(分割払い)や物納(自社株そのものを現物で納める)という選択肢もあります。ただし、物納は自社株の場合、市場性が低いことから許可されにくいという実情があります。
延納も利子税が発生するうえ、担保の提供が必要になるなど手続きが煩雑です。結果として、会社から後継者個人への貸付や、金融機関からの新たな借入に頼らざるを得なくなるケースが少なくありません。相続税の申告・納税には期限があるため、対策は早いほど選択肢が広がります。相続手続き全体のスケジュールについては、相続手続きの期限一覧|3ヶ月・4ヶ月・10ヶ月・3年以内にやるべきこととペナルティもご確認ください。
落とし穴⑤個人保証(連帯保証)の相続
見落とされがちですが、中小企業オーナーの相続では、自社株だけでなく「個人保証」も相続の対象になります。会社の借入やリース契約などにオーナーが連帯保証人になっている場合、その保証債務は、相続を単純承認した相続人にそのまま引き継がれます。
※以下は理解を助けるための構成例です。
ある建設業の相続人は、自社株と自宅を相続して安心していたところ、数年後に会社の借入金が返済困難になり、金融機関から連帯保証人としての返済請求を受けました。先代が個人保証をしていたことを、相続時にはほとんど把握していなかったといいます。
保証債務は、預金や不動産のようにプラスの財産として目に見えるものではないため、相続人が存在すら知らないまま相続してしまうリスクがあります。相続放棄という選択肢もありますが、その場合は自社株を含むすべての資産を放棄することになるため、事前の情報把握が欠かせません。近年は経営者保証の解除を後押しする信用保証制度も整備が進んでいるため、生前のうちに保証契約の内容を確認し、金融機関に相談しておくことが望ましいでしょう。
事業承継税制(特例措置)で自社株の納税猶予・免除を受ける
自社株の相続税・贈与税の負担を大きく軽減できる制度として、事業承継税制(特例措置)があります。後継者が非上場株式を相続・贈与された場合、一定の要件を満たすことで、相続税・贈与税の納税が猶予され、将来的に一定の条件のもとで免除される仕組みです。
特例措置は、猶予される株式数の上限や納税猶予割合に制限がなく、雇用確保要件も実質的に緩和されているため、一般措置よりも大幅に有利な制度設計になっています。2025年度の税制改正では、後継者の役員就任期間について「贈与前3年以上」という要件が撤廃され、贈与の直前に役員に就任していれば適用対象となるよう緩和されました。
適用を受けるためには、都道府県に「特例承継計画」を提出し、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受ける必要があります。中小企業庁の公表情報によれば、期限は次のとおりです。
- 特例承継計画の提出期限:2027年(令和9年)9月30日まで
- 特例措置の適用期限(贈与・相続の実行期限):2027年(令和9年)12月31日まで(延長されない見込み)
いずれも十分に時間があるように見えますが、計画の策定には決算内容の分析や後継者の選定など準備に時間を要するため、早めに顧問税理士や認定支援機関に相談を始めることをおすすめします。詳細は中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」で確認できます。
デジタル終活を安全・簡単に進めたい方は、DENのモニター募集をご確認ください。自社株や事業承継の情報を整理しておくことは、専門家への相談をスムーズにする第一歩にもなります。
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事業承継の3つの選択肢を比較する
事業承継の方法は、親族内承継だけではありません。近年は選択肢が広がっており、それぞれにメリット・デメリットがあります。
| 承継方法 | メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|---|
| 親族内承継 | 従業員・取引先の理解を得やすい/事業承継税制を活用しやすい | 後継者候補の適性・意欲の見極めが必要/株式分散リスクへの対策が必須 |
| 従業員承継(役員・従業員への承継) | 経営の連続性を保ちやすい/社内事情に精通している | 株式取得の資金調達が課題になりやすい/個人保証の引き継ぎが障壁になることも |
| M&A(第三者承継) | 後継者不在でも事業を存続できる/創業者利益を得られる可能性がある | 経営方針・企業文化が変わる可能性/マッチングに時間を要する場合がある |
中小企業庁の資料では、親族内承継が減少する一方、M&Aによる第三者承継の活用が拡大傾向にあることが示されています。「後継者は子どもに」という前提にとらわれず、会社の存続と従業員の雇用を守るという視点から、複数の選択肢を早めに比較検討することが重要です。
経営権分散を防ぐ最優先策は遺言書
落とし穴②・③で見たとおり、自社株が複数の相続人に分散することは、経営の意思決定を停滞させる最大のリスクです。この分散を防ぐもっとも基本的かつ有効な手段が、遺言書の作成です。
遺言書によって「自社株は後継者に相続させる」と明確に指定しておけば、遺産分割協議を経ずに株式を後継者へ集中させることができます。ほかの相続人には自社株以外の資産を相続させたり、遺留分に配慮した代償金を準備したりすることで、相続人間の公平感を保ちながら経営権の分散を防ぐことが可能になります。
なお、遺言書には自筆証書遺言と公正証書遺言がありますが、事業承継のように高額な資産や複雑な事情が絡む場合は、無効リスクが低く、原本が公証役場に保管される公正証書遺言が推奨されます。生前贈与を組み合わせて自社株を計画的に移転する方法についても、生前贈与の7年ルールとは|2024年改正で変わった相続税の持ち戻し期間と対策で解説していますので、あわせてご確認ください。
また、生前に経営権を段階的に移す仕組みとして家族信託を活用する方法もありますが、設計を誤ると相続税・議決権の面で思わぬ落とし穴になることもあります。家族信託の失敗パターンについては、家族信託の失敗事例7選|設計ミス・運用ミスで逆効果になる注意点と防ぐ方法を参考に、専門家とともに慎重に検討することをおすすめします。
個人保証は誰が引き継ぐのか、事前に確認しておくべきこと
落とし穴⑤で触れたとおり、個人保証は相続人にとって「見えない負債」になりがちです。生前のうちに、次の点を確認しておきましょう。
- 会社の借入・リース契約に、オーナーが連帯保証人になっているものはどれか
- 保証している金額の総額はいくらか
- 事業承継特別保証制度など、保証解除を後押しする制度が利用できないか
- 後継者へ保証を引き継ぐのか、金融機関と交渉して外すことができるのか
これらの情報は、決算書や契約書を見ただけでは分かりにくいものです。会社の顧問税理士や取引金融機関に確認し、保証契約の一覧を整理しておくことが、相続人を思わぬ債務から守る備えになります。
エンディングノートで自社株・個人保証・取引先情報を記録する
中小企業オーナーの相続対策で特に重要なのが、「経営に関する情報の可視化」です。自社株の評価資料、個人保証の契約内容、主要取引先や顧問税理士・弁護士の連絡先——こうした情報が整理されていなければ、相続人や後継者は何から手をつければよいか分からず、対応が後手に回ってしまいます。
DENは、自社株や個人保証、取引先情報といった事業に関わる重要情報を暗号化して安全にデジタル管理し、必要なタイミングで後継者やご家族へ共有できるデジタルエンディングノートサービスです。現在、サービス開始に向けてモニターを募集しています。
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専門家に相談すべきタイミング
自社株の評価、事業承継税制の適用、個人保証の整理はいずれも専門性が高く、経営者ご自身の判断だけで進めるにはリスクが伴います。次のようなタイミングでは、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
- 税理士:自社株の評価額の試算、事業承継税制の適用可否、相続税の納税資金対策
- 弁護士:遺言書の作成、遺留分対策、株式分散リスクへの法的対応
- 中小企業診断士:事業承継計画の策定、M&Aを含めた承継方法の比較検討
「まだ先の話」と後回しにせず、後継者候補が定まった段階、あるいは経営者が60代に差し掛かった段階で、一度専門家に相談してみることをおすすめします。
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まとめ|生前対策こそが会社と家族を守る
中小企業オーナーの相続は、一般的な相続とは異なる特殊な難しさを抱えています。非上場の自社株は現金化しにくいにもかかわらず高額な評価を受けやすく、相続税の納税資金不足、経営権の分散、そして見落とされがちな個人保証の相続まで、複数のリスクが絡み合っています。
これらのリスクに共通する解決策は、生前対策を早めに始めることです。遺言書で自社株の承継先を明確にし、事業承継税制の活用を検討し、個人保証の状況を整理しておく——この3つに取り組むだけでも、相続発生後の混乱は大きく減らせます。
事業承継税制の特例措置は、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日、適用期限が2027年12月31日となっており、決して十分すぎる猶予ではありません。会社の存続と、ご家族・従業員の生活を守るためにも、早めに税理士・弁護士・中小企業診断士へ相談し、生前対策を進めていきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 自社株の相続税評価額は、誰に相談すれば分かりますか?
顧問税理士、または相続税・事業承継に強い税理士に依頼することで、類似業種比準価額方式・純資産価額方式に基づいた評価額の試算が可能です。決算書数期分をもとに算定するため、早めの依頼をおすすめします。
Q2. 後継者が自社株をすべて相続すると、他の相続人は何ももらえないのでしょうか?
遺言書によって自社株を後継者に集中させる場合でも、他の相続人には遺留分(法律上最低限保障された取り分)があります。自社株以外の資産の配分や、代償金の準備によって、遺留分に配慮した対策を講じることが一般的です。
Q3. 事業承継税制(特例措置)を使えば、相続税は完全に免除されますか?
一定の要件を満たしたまま後継者が事業を継続すれば、猶予された税額が将来的に免除される仕組みですが、要件を満たさなくなった場合は猶予が打ち切られ、利子税とともに納税が必要になることがあります。適用にあたっては、要件を専門家と一緒に確認することが不可欠です。
Q4. 個人保証を相続したくない場合、相続放棄すればよいのでしょうか?
相続放棄をすれば個人保証は引き継がれませんが、自社株を含むすべての資産を放棄することになります。会社の経営を続けたい場合は、相続放棄ではなく、保証契約の内容確認や金融機関との交渉、事業承継特別保証制度の活用などを検討するのが現実的です。
Q5. 従業員承継やM&Aを選ぶ場合も、自社株の相続対策は必要ですか?
必要です。親族内承継でなくても、経営者が急に亡くなれば自社株は相続の対象になります。従業員承継やM&Aを見据える場合でも、遺言書の作成や株式の整理といった生前対策は、承継をスムーズに進めるために欠かせません。
Q6. 事業承継の相談は、何から始めればよいですか?
まずは自社株の評価額を把握し、会社の資産・負債(個人保証を含む)を整理することから始めましょう。そのうえで、顧問税理士や事業承継・M&A支援機関、商工会議所などの相談窓口に、早めに相談することをおすすめします。
参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」/中小企業庁「2025年版中小企業白書」/中小企業庁「令和7年度版 中小企業経営者のための事業承継対策」
監修:本記事は事業承継・相続分野の専門家監修のもと、公的機関の公表情報を参照して作成しています。制度内容・数値は作成時点のものであり、最新の法改正等により変更される場合があります。
最終更新日:2026年8月15日


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