成年後見制度の見直しと2026年改正まとめ|3つの問題点と「終われる後見」への転換、今できる対策
公開日:2026年8月23日 / 最終確認日:2026年8月23日
フォーカスKW:成年後見制度 見直し 改正 2026 問題点
カテゴリ:認知症・成年後見
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。本記事は2026年8月時点の情報です。 未施行の制度改正については、確定した内容と検討段階の内容を区別して記載しています。
これまで3回にわたって、成年後見制度の問題点を掘り下げてきました。
「法定後見制度の7つの問題点」では、月2〜6万円の報酬が亡くなるまで続く仕組みを。「成年後見制度の「闇」を回避する4つの方法」では、専門家が後見人の8割以上を占める実態を。「成年後見人の横領・トラブルはなぜ起きるのか」では、性善説で設計された監督体制の脆さを、それぞれ扱いました。
読んでくださった方の多くが、こう感じたのではないでしょうか。
「問題はよく分かった。では、いつ・どう変わるのか」
その問いに答える動きが、2026年に入って大きく進みました。成年後見制度を抜本的に見直す改正民法が、2026年6月17日に成立しています。 施行はまだ先ですが、「何が問題で、どう変わろうとしているか」を今のうちに押さえておくことには意味があります。本記事は、これまでのシリーズの総まとめとして、問題点の整理と改正の中身、そして施行までの間に家族ができる対策をまとめます。
本記事でわかること:
- これまでのシリーズで指摘してきた3つの構造的問題のおさらい
- 2026年6月に成立した改正民法で、何がどう変わるのか(確定情報)
- 法制審議会がどんな理念で議論を進めてきたのか
- 改正後、家族の立場から見て何が変わりうるか(未確定部分は「検討中」と明記)
- 施行(最大2028年12月24日まで)を待たずに、今できる対策
成年後見制度、何が問題だったのか——3つの壁
まず、これまでのシリーズで繰り返し指摘してきた問題点を整理します。
①専門家報酬が高額で、しかも一生涯続く
後見人への報酬は本人の財産から毎月支払われ、管理財産額に応じて月2万〜6万円が目安とされています。認知症の平均的な経過期間を10年とすると、単純計算で240万〜720万円という規模になります。これは将来の相続財産から目減りしていく金額であり、事前にこの規模感を把握している家庭は多くありません。
②家族が後見人に選ばれにくい
2022年の司法統計によると、家庭裁判所が選任した後見人のうち81.9%が弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門家でした。親族が選ばれたのは約18.1%にとどまります。申立書に候補者を記載できても、最終的な選任権限は家庭裁判所にあり、家族の希望が通るとは限りません。
③一度始めると、原則やめられない
法定後見は、本人が判断能力を回復するか、亡くなるまで続くのが原則です。「症状が落ち着いたから」「もう財産管理は必要ないから」という理由だけで、途中でやめることは想定されていませんでした。この「原則終身」という設計が、専門家報酬の継続や、財産の自由な引き出し制限といった問題を長期化させる根本原因になっていました。
利用者数そのものは増加を続けています。それでも「使いにくい」という批判が絶えなかったのは、この3つの壁が、認知症になった本人だけでなく、支える家族の生活にも重くのしかかっていたためです。
【速報】2026年6月、改正民法が成立——確定した変更点
ここからが本記事の中心です。成年後見制度の見直しを盛り込んだ改正民法(民法等の一部を改正する法律・令和8年法律第45号)は、2026年6月17日に参議院本会議で可決・成立し、6月24日に公布されました。 詳細は法務省の公式ページ「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」で確認できます。
重要なのは、「成立」と「施行」は別だという点です。改正法の施行は公布の日から2年6か月以内に政令で定める日とされており、遅くとも2028年12月24日までに施行される見込みです。つまり、現時点(2026年8月)では、これまで解説してきた法定後見・任意後見の仕組みは、まだ従来のまま運用されています。
確定している主な変更点は、次の3つです。
変更点1:「後見・保佐・補助」の3類型を「補助」に一本化
現行制度は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型に分かれ、それぞれ後見人が代理できる範囲があらかじめ法律で決められています。改正後は、この3類型が「補助」に一本化され、本人にどこまでの支援が必要かを個別に決めていく「オーダーメイド型」に変わります。財産管理だけでなく、日常生活の支援も含めて、必要な範囲を個別に設計していく方向です。
変更点2:終身制の廃止——「終われる後見」へ
もっとも大きな変更が、この点です。改正後は、家庭裁判所が「もう制度を利用する必要がなくなった」と判断すれば、開始の審判を取り消して制度を終了したり、同意権・代理権の一部だけを取り消したりすることが可能になります。従来の「原則終身」という縛りから解放され、必要な期間だけ利用できる仕組みへの転換です。
変更点3:任意後見監督人が不要になるケースの新設
任意後見は、判断能力があるうちに、本人が信頼する人を後見人候補として指定しておける制度です。ただし現行制度では、任意後見監督人が選任されて初めて効力が生じ、その監督人への報酬も本人の財産から支払われ続けます。この監督人コストが利用のハードルになっているとされ、改正では一定の場合に任意後見監督人が不要になるケースが新設されます。任意後見をより使いやすくする方向の変更です。
これら3点は、成立・公布済みの確定内容です。一方で、具体的な運用細則や、報酬に関する取り扱いの詳細は、今後の政令・規則の整備を待つ必要があり、現時点では「検討中」「議論が進んでいる」段階にとどまります。
法制審議会はどんな議論をしてきたのか——「本人の意思尊重」への転換
今回の改正の背景には、法制審議会での数年にわたる議論があります。1999年の制度創設から26年が経ち、運用実態に対する批判が積み重なってきたことが出発点です。
議論の中心にあったのは、「後見人が包括的な代理権を持つことで、本人の行為の自由を過度に制限してしまう」という問題意識でした。この点は、国際的な人権の観点からも指摘されてきた論点です。
これを受けて、法制審議会が示した方向性は、大きく次の2つに整理できます。
- 「必要な範囲での支援」へのシフト:財産管理という金銭面の保護だけでなく、日常生活における意思決定の支援も含めて、本人にとって本当に必要な支援は何かを個別に設計していく考え方
- 本人の意思の尊重:支援の開始・内容・終了のいずれの場面でも、本人の意思をできる限り尊重する方向での制度設計
「制度に本人を合わせる」のではなく、「本人に制度を合わせる」という発想の転換だと言えます。この理念が、前章で紹介した「3類型の一本化」や「終身制の廃止」という具体的な制度変更につながっています。
なお、報酬制度についても、一律の報酬体系から支援内容に応じた柔軟な体系へ見直すべきだという指摘は各方面から出ています。ただし、これが改正法の条文にどこまで具体的に盛り込まれているかは、本記事執筆時点で確認できる公開情報の範囲では明確でなく、引き続き検討・議論が進んでいる論点として捉えるのが正確です。
改正後、家族はどう変わる?——現時点でのシミュレーション
「結局、うちの家族にとって何が変わるのか」という視点で、確定している変更点をもとに整理します。ここで挙げる内容のうち、断定できない部分は「〜となる可能性があります」という表現にとどめている点にご留意ください。
家族後見人は選ばれやすくなるのか
改正後は、本人の意思を尊重しながら必要な範囲の支援を個別に設計する仕組みに変わります。この設計思想からは、身近で本人の生活を理解している家族が支援者として選ばれやすくなる可能性が指摘されていますが、選任基準そのものが「家族優先」に変わるとは公表資料からは読み取れません。 現行制度で専門家が81.9%を占めている実態が、施行後にどう変化するかは、今後の運用を見なければ分かりません。
報酬はどう変わるのか
現行制度の「月2〜6万円が本人が亡くなるまで続く」という基本報酬の仕組み自体は、改正法の確定内容として撤廃が明記されているわけではありません。「終身制の廃止」によって制度利用の期間そのものが短くなる可能性はありますが、報酬体系の柔軟化については、前章で述べた通り現時点では検討課題という位置づけです。
不正防止の監督体制は強化されるのか
パート3の記事で扱った横領事案のような不正防止についても、改正の主眼は「オーダーメイド型」への転換と「終身制の廃止」に置かれており、監督体制の強化そのものが改正法の中心的な条文になっているとは、現時点の公開情報からは確認できません。この点も、今後の運用や関連する規則整備の中で議論が進んでいく可能性がある論点です。
改正にも残る課題——制度の複雑さ・地域格差・専門家不足
改正の方向性そのものは、多くの専門家から前向きに評価されています。一方で、施行に向けては次のような課題も指摘されています。
- 制度の複雑さ:3類型が一本化される分、「本人にどこまでの支援が必要か」を個別に判断する手続きが、これまで以上に丁寧な審理を要する可能性があります
- 地域格差:家庭裁判所や専門職後見人の数には地域差があり、オーダーメイド型の運用を全国均一に実現できるかは今後の課題です
- 専門家不足:家族後見人が選ばれやすくなったとしても、専門家によるサポートや監督の必要性がなくなるわけではなく、専門職の担い手不足という構造的な問題は残ります
制度が成立したからといって、これらの課題がただちに解消するわけではありません。施行までの2年半という期間は、こうした運用面の準備期間でもあります。
改正を待つより、今できる対策を——任意後見・家族信託を先に
ここで、あらためて時間軸を整理しておきます。
- 改正民法の成立・公布:2026年6月(完了)
- 施行:遅くとも2028年12月24日まで(未定・今後政令で確定)
- それまでの間:現行の法定後見・任意後見の仕組みがそのまま運用される
つまり、施行を待っている間も、認知症は待ってくれません。 判断能力が低下してしまえば、その時点で選べる対策は法定後見制度だけになります。任意後見契約や家族信託、生前贈与、財産管理委任契約といった対策は、いずれも本人の判断能力があるうちにしか結べません。
具体的な選択肢と、それぞれの特徴の比較は、以前の記事「財産管理委任契約とは?」や「成年後見制度の「闇」を回避する4つの方法」で詳しく比較しています。「改正で制度が良くなるまで待とう」ではなく、「今できる対策を先に打ち、必要になったときに新しい制度を選択肢に加える」という考え方が現実的です。
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任意後見契約を結んでも、家族信託を組んでも、その存在と内容が家族に伝わっていなければ、いざという時に活用できません。 「誰に後見人になってほしいか」「財産管理をどこまで託したいか」という本人の意向は、契約書という形式だけでなく、日頃の言葉としても残しておく必要があります。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 成年後見制度の改正法は、もう施行されているのですか?
いいえ、まだ施行されていません。改正民法(令和8年法律第45号)は2026年6月17日に成立・6月24日に公布されましたが、施行は公布から2年6か月以内、つまり遅くとも2028年12月24日までに政令で定める日とされています。本記事執筆時点(2026年8月)では、従来の法定後見・任意後見の仕組みがそのまま運用されています。
Q2. 改正後は、家族が後見人に選ばれやすくなりますか?
制度の設計思想としては、本人の意思を尊重し必要な範囲の支援を個別に設計する方向に変わるため、身近な家族が支援者として選ばれやすくなる可能性は指摘されています。ただし、選任基準そのものが「家族優先」に変わると明記された公開情報は確認できておらず、現時点では検討・議論が進んでいる段階と捉えるのが正確です。
Q3. 現在すでに法定後見を利用している場合、改正法は適用されますか?
改正法の施行日以降、既存の利用者にどのような経過措置が適用されるかは、今後の政令や関連規則の整備によって確定する事項です。個別の状況については、担当の家庭裁判所または専門家にご確認ください。
Q4. 専門家報酬が月2〜6万円続く問題は、改正で解消されますか?
「終身制の廃止」により制度利用の期間が短くなる可能性はありますが、報酬体系そのものの見直しが改正法にどこまで盛り込まれているかは、本記事執筆時点で確認できる公開情報からは明確ではありません。この点は引き続き検討が進んでいる論点として捉えてください。
Q5. 改正の施行を待って、任意後見や家族信託の準備を始めるべきですか?
おすすめできません。任意後見契約や家族信託は、本人の判断能力があるうちにしか結べません。施行は最大で2028年12月24日までかかる見込みであり、その間に判断能力が低下すれば、選べる対策は法定後見制度だけになります。改正を待たず、今のうちに専門家へ相談することをおすすめします。
Q6. 改正の詳細情報は、どこで確認できますか?
法務省が公開している「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」で確認できます。現行の成年後見制度の基本的な仕組みは、裁判所「後見ポータルサイト」のページも参考になります。
Q7. DENのエンディングノートには、後見に関する意向も記録できますか?
はい、記録できます。任意後見契約や家族信託の契約情報の保管場所、後見人候補者への連絡先、本人の意向などを暗号化した形で残せるため、改正法の施行を待たずに、今から準備を始められます。
まとめ:改正の方向性を知り、施行を待たずに動く
- これまでのシリーズで指摘してきた3つの問題(高額報酬の継続、家族が選ばれにくい、原則やめられない)は、成年後見制度が抱える構造的な壁でした
- 2026年6月17日、これらの問題に対応する改正民法が成立・公布されました。ただし施行は最大2028年12月24日まで先の話です
- 確定している変更は「3類型を『補助』に一本化」「終身制の廃止」「任意後見監督人が不要になるケースの新設」の3点
- 家族後見人の選ばれやすさや報酬体系の見直しについては、現時点では検討・議論が進んでいる段階であり、断定できません
- 施行を待つ間も認知症は進行するため、任意後見・家族信託・財産管理委任契約といった対策は、判断能力があるうちに先に動くことが重要です
今日できる1アクション:
- 改正の中身を家族で共有し、「うちの場合はどうなりそうか」を話し合う
- 任意後見・家族信託について、司法書士・弁護士に早めに相談する
- 後見に関する本人の意向を、DENなどで記録し家族が把握できる状態にしておく
制度は変わろうとしていますが、変わるまでにはまだ時間がかかります。改正の完成を待つのではなく、今の制度と今できる対策を正しく理解したうえで、判断能力があるうちに一歩を踏み出すことが、家族の安心につながります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。個別の案件については、専門家(弁護士・税理士・司法書士)にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。改正法の施行時期・運用細則など未確定の事項については、今後の政令・規則の整備により変更される可能性があります。本記事は2026年8月時点の情報です。


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