「うちは国際結婚だから、相続のときは何が違うんだろう」——そう考えたことはありませんか。厚生労働省の人口動態調査によると、2023年に夫婦の一方が外国人だった婚姻は18,475件にのぼります。国際結婚は決して珍しいものではなく、外国籍の配偶者や子がいるご家庭は年々増えています。
しかし、いざ相続が発生すると、日本人同士の相続とは異なる論点が次々と出てきます。どの国の法律が適用されるのか(準拠法)、日本と外国の両方で相続税がかかってしまうのではないか、海外の書類はどう認証すればよいのか——こうした疑問に、実務の流れに沿って答えていきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律・税務・投資相談ではありません。国際相続は関係する国の数だけルールが存在し、個別の事情によって結論が大きく変わります。実際の手続きにあたっては、必ず国際相続専門の弁護士・税理士にご相談ください。記事内の情報は作成時点のものであり、法改正等により変更される場合があります。
国際相続とは何か
国際相続とは、相続人・被相続人(亡くなった人)・相続財産のいずれかが外国に関係している相続のことです。次のようなケースはすべて国際相続に該当します。
- 日本人が外国籍の配偶者を残して亡くなった
- 外国籍の人が日本人配偶者・子を残して亡くなった
- 相続人の一人が海外に住んでいる、または外国籍を持っている
- 被相続人が海外に不動産や預金口座を持っていた
「自分たちは日本に住んでいるから関係ない」と思われがちですが、配偶者や子のどちらかが外国籍であるだけで、国際相続の枠組みで検討する必要が生じます。
準拠法はどう決まるか【通則法36条】
国際相続を考えるうえで最初に押さえておきたいのが「準拠法」という考え方です。準拠法とは、その相続にどの国の法律を適用するかを決めるルールを指します。
日本には「法の適用に関する通則法」という法律があり、その36条に次のように定められています。
相続は、被相続人の本国法による
つまり、亡くなった人がどこの国籍を持っていたかによって、適用される相続法が決まる仕組みです。相続人の国籍や、財産がどこにあるかは、原則として準拠法の判断には影響しません。
具体的には、日本人が海外に住んでいても、その人が亡くなれば相続は日本法で処理されます。反対に、外国籍の人が日本に長年住んでいても、その人が亡くなれば、原則としてその人の国籍国の法律が適用されます。
なお、国によっては「亡くなった人が最後に住んでいた国の法律による」という考え方(住所地法主義)を採用しており、日本法と相手国法が互いに相手を指し示し合う「反致」という現象が起きることもあります。反致が成立すると、結果的に日本法が適用されるケースもあり、判断は容易ではありません。どの国の法律が最終的に適用されるかは、国際相続専門の弁護士による個別の確認が欠かせません。
【早見表】4パターン別の準拠法の考え方
「誰の本国法が適用されるか」を整理すると、よくある組み合わせは次の4パターンに分けられます。
| パターン | 被相続人 | 配偶者・相続人 | 準拠法の原則 |
|---|---|---|---|
| ① | 日本人 | 外国籍配偶者 | 日本法(被相続人が日本人のため) |
| ② | 外国籍者 | 日本人配偶者 | 被相続人の本国法(国により大きく異なる) |
| ③ | 日本人(海外居住) | 外国籍配偶者 | 日本法(居住地でなく国籍で決まる) |
| ④ | 外国籍者(日本居住) | 日本人配偶者 | 被相続人の本国法(反致が生じる場合あり) |
この表からわかるとおり、「誰が亡くなったか」で準拠法が決まり、「相続人が誰か」「どこに住んでいるか」は直接の決め手にはなりません。ただし、被相続人の本国法の中身は国によって大きく異なり、相続人の範囲や法定相続分がまったく違う場合もあります。この早見表はあくまで「原則」であり、実際の適用は個別の確認が必要という前提を忘れないでください。
日本での相続手続き【外国籍の相続人がいる場合】
被相続人が日本人で、相続人の中に外国籍の人がいる場合、相続手続き自体は日本法(民法)に従って進みます。ただし、外国籍の相続人は日本の戸籍制度に入っていないため、次のような代替書類が必要になります。
- 宣誓供述書(Affidavit):戸籍謄本の代わりに、自分が相続人であることや身分関係を宣誓する書類。現地の公証人や在外日本大使館・領事館で作成します。
- 署名証明書:実印・印鑑証明書がない外国籍の相続人が、遺産分割協議書などに署名したことを証明する書類。
- 在留証明書:日本に住んでいる場合は在留カードなどで居住の事実を確認します。
不動産の相続登記についても、適用される準拠法が外国法であっても、登記手続きそのものは日本の不動産登記法に従って日本の法務局で行う必要がある点に注意が必要です。
外国での相続手続き【海外に財産がある場合】
被相続人が海外に不動産や銀行口座を持っていた場合は、日本の手続きとは別に、財産が所在する国での手続きが必要になります。
多くの英米法系の国では「プロベート(遺言検認)」という裁判所を通じた手続きが必須とされており、日本の遺産分割協議のようにすぐに財産を動かせない仕組みになっています。国によっては手続きに1年以上かかることも珍しくありません。
現地の法律・言語・裁判所手続きに対応する必要があるため、日本の専門家だけでは完結できないケースがほとんどです。財産が所在する国の相続に精通した現地の弁護士と、日本側の国際相続専門の弁護士が連携して進めるのが実務上の基本パターンになります。
二重課税問題と外国税額控除
準拠法の話とは別に、相続税の課税範囲は日本独自のルールで決まります。日本の相続税は、被相続人や相続人の国籍・居住状況に応じて、日本国内の財産だけでなく海外の財産まで課税対象になることがあります。
海外に財産がある場合、その財産に対して現地国でも相続税に相当する税金が課されることがあり、結果として同じ財産に日本と海外の両方で課税される「二重課税」が起こり得ます。
この二重課税を調整する仕組みが「外国税額控除」です。海外で課された相続税相当額を、一定の限度額の範囲内で日本の相続税額から差し引くことができます。ただし、日本国内財産にしか課税されない「制限納税義務者」に該当する場合はこの控除の対象外になるなど、適用条件が細かく定められています。海外財産の有無や相続人の在留状況によって結論が変わるため、申告前に相続税に強い税理士へ確認することを強くおすすめします。
アポスティーユとは【外国公文書の認証】
国際相続の手続きでは「アポスティーユ」という言葉に必ずといっていいほど出会います。アポスティーユとは、1961年のハーグ条約に基づき、ある国が発行した公文書を、条約加盟国において正式なものとして通用させるための認証制度です。
日本の戸籍謄本や登記事項証明書を海外の相続手続きに提出する場合、そのままでは受け付けてもらえないことが多く、次のような手順で認証を取得します。
- 公文書(戸籍謄本など)の場合:市区町村役場で書類を取得したあと、外務省でアポスティーユの付与を受け、必要に応じて英訳を添付します。
- 私文書(遺産分割協議書など)の場合:公証役場で公証人の認証を受け、法務局で公証人押印証明を取得したうえで、外務省にアポスティーユを申請します。
提出先の国がハーグ条約の加盟国でない場合は、アポスティーユではなく「公印確認」と現地大使館での認証という、さらに手間のかかる手続きが必要になります。提出先の国によって必要な認証の種類が変わるため、事前に現地の要件を専門家とともに確認しておくことが重要です。
Q. 英語の遺言書は日本で有効?
「海外で英語で作成した遺言書は、日本の相続で使えるのか」という質問もよく寄せられます。
遺言の効力については、通則法とは別に「遺言の方式の準拠法に関する法律」という法律があり、作成地の方式、遺言者の本国法の方式など、いずれかの国の方式要件を満たしていれば有効と扱われる仕組みになっています。つまり、英語で書かれていること自体は無効の理由にはなりません。
ただし、方式面で有効であっても、内容の解釈や執行の場面では準拠法との関係で問題が生じることがあります。また、日本国内で遺言を執行するには日本語訳の提出が求められます。「有効か無効か」の最終判断はケースごとに異なるため、必ず専門家に遺言書そのものを確認してもらう必要があります。
在日外国人が死亡した場合に押さえておきたいこと
外国籍の人が日本で亡くなった場合、日本人の遺族側にも実務的な負担が生じます。
被相続人の本国の戸籍・身分関係を証明する書類は、日本の役所ではなく被相続人の本国、または日本にある大使館・領事館から取得する必要があります。取得した書類は日本語訳を添付しなければならず、翻訳の正確性を証明するために翻訳者の宣誓供述書を求められることもあります。
さらに、被相続人の本国法によっては相続人の範囲や順位が日本の民法と大きく異なるため、「誰が相続人なのか」を確定させる作業自体に時間がかかります。言語の壁と制度の違いが重なるため、早い段階で国際相続の経験がある専門家に相談し、必要書類の全体像を把握しておくことをおすすめします。
生前対策として今からできること
ここまで見てきたとおり、国際相続は準拠法の確認、外国での手続き、二重課税、書類の認証と、通常の相続に比べてはるかに多くのステップを踏む必要があります。だからこそ、生前にできる備えの価値が大きくなります。
- 各国の遺言方式に対応した形で遺言書を作成し、財産の行き先を明確にしておく
- 想定される提出先の国を踏まえ、必要な書類とアポスティーユの取得方法を事前に確認しておく
- 海外の不動産・口座の情報を一覧化し、家族が把握できるようにしておく
特に重要なのが、相続人となる家族が「そもそも何を調べればよいかわからない」状態を避けることです。国籍、在留資格、海外財産の所在、遺言書の保管場所といった情報を、紙のエンディングノートではなく暗号化された形でデジタルエンディングノートに記録しておけば、専門家に相談する際の初動が大きく変わります。デジタル終活を安全・簡単に進めたい方は、DENのモニター募集をご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 日本国籍を離脱した家族が亡くなった場合、相続はどう扱われますか?
A1. 準拠法の判断は死亡時点の国籍を基準に行うため、離脱後に取得した国籍の本国法が適用されるのが原則です。二重国籍の場合はさらに複雑な判断が必要になるため、専門家への確認が欠かせません。
Q2. 海外にある銀行口座は、どうやって調べればよいですか?
A2. 日本の金融機関のように一括で照会できる公的な仕組みは国によって異なります。通帳や取引明細、口座開設時の書類などの手がかりをもとに、現地の金融機関や専門家に照会する必要があります。
Q3. 準拠法(どの国の相続法が適用されるか)と、相続税の課税国は同じですか?
A3. 別のルールで決まります。準拠法は被相続人の国籍で判断されますが、相続税は日本・相手国それぞれの税法に基づいて、財産の所在地や相続人の居住状況などから個別に判断されます。混同しやすいポイントなので注意が必要です。
Q4. 二重国籍の家族が被相続人の場合、本国法はどう決まりますか?
A4. 通則法上、重国籍者の場合は、そのうちの一つが日本国籍であれば日本法が本国法とみなされます。日本国籍を持たない複数国籍の場合は、常居所がある国の法律などをもとに個別に判断されます。
Q5. 国際相続に対応できる専門家は、どうやって探せばよいですか?
A5. 国際相続を専門分野として明示している弁護士事務所・税理士事務所に相談するのが基本です。相手国での手続きが必要な場合は、現地の専門家と連携できる事務所かどうかも確認しておくと安心です。
Q6. 遺産分割協議書に外国籍の相続人がサインする場合、印鑑証明の代わりに何が必要ですか?
A6. 実印・印鑑証明書の制度がない国が多いため、代わりに現地公証人やサイン証明機関が発行する署名証明書を添付するのが一般的です。
まとめ|国際相続は「準拠法」の理解から始まる
国際相続では、まず「誰の本国法が適用されるか」という準拠法の考え方を理解することが出発点になります。原則は被相続人の国籍で決まりますが、反致や外国での手続き、二重課税、アポスティーユなど、通常の相続にはない論点が次々と絡み合います。
生前に遺言書を整え、海外財産の情報や必要書類の見込みを整理しておくことが、遺された家族の負担を大きく減らします。DENのデジタルエンディングノートは、相続・遺言・終活に関する大切な情報を暗号化して安全に保管するサービスとして、現在サービス開始に向けてモニターを募集しています。DENを活用すれば、国籍や海外財産の情報を家族に安全に引き継ぐ準備ができます。詳細・事前予約はこちらからご確認ください。
改めて強調しますが、国際相続は関わる国の数だけ異なるルールが存在し、本記事で紹介した内容はあくまで一般的な考え方の整理にとどまります。実際の手続きにあたっては、必ず国際相続専門の弁護士・税理士にご相談ください。
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参考
– 外務省「証明(アポスティーユ・公印確認)申請手続きガイド」
– 国税庁「No.4138 相続人が外国に居住しているとき」
(本記事は2026年8月時点の情報に基づいて作成しています。最新の制度内容は法務省・外務省・国税庁の公式サイトでご確認ください。)


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